市場拡大が見込まれているのに事業がたちゆかない業界がある。2023年1~8月に訪問介護事業者の倒産件数が過去最多の44件を記録したと報じられ(東京商工リサーチ調べ)、急増ぶりに驚きが広がっている。調査を開始した2000年以降、倒産件数は年間で58件(2019年)が過去最多だったが、それを大幅に上回りそうなペースだ。人々の暮らしに現れる社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、介護ヘルパーがいない地域が増え、介護ヘルパーのなり手がいない実態についてレポートする。
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「訪問先の時間分しか時給はつきません。交通費も出ない。時給1050円で1日4件まわって4時間分の賃金、これで働きたい人がいると思うほうがおかしいと思います」
都内の元訪問介護員(ホームヘルパー)の50代女性が語る。
先に大事な話をすると、いま日本の訪問介護事業は「崩壊の危機」に瀕している。大げさではない、現在の現役世代でも「親のところに来てくれるヘルパーがいない」「(親の訪問介護で)もう派遣できないから、すいませんがそういうことで。と言われた」など、コロナ禍を経た日本全国で「ヘルパーがいない」という地域が増え続けている。都市部でも「ヘルパーに誰もならない」「求人してもずっと誰も来ない」が常体化している。
本稿、主題はあくまで介護従事者、とくに常勤、非常勤問わずのホームヘルパーの労働問題であり、社協(社会福祉協議会)や民間企業などの違いや個別事情、システムの説明など福祉事業の詳細そのものは割愛する。専門用語も適宜、改めている。
こんなに働く側の人権が蔑ろにされる仕事もない
それにしてもホームヘルパー、信じられないほど労働条件が悪く、賃金も安い。
「サービスの提供時間しか賃金は出ません。買い物とか炊事、洗濯など生活介助が大半で、それも単価は安いです。利用本人も、その身内の方も大変なのはわかりますけど、こちらもそんな待遇で仕事を続けられません。生活できません」
厳しい言い方になるのも仕方のない話。それほどまでに絶望的なのが日本の福祉の現場、とくにホームヘルパーによる訪問介護事業は「日本から消える」事態になりかねないほどに窮している。介護事業所は次々と倒産、閉鎖に追い込まれ、介護労働安定センターの調査によればホームヘルパーの人手不足は83.5%に及ぶ(2022年度)。全国各地の訪問介護を担う社会福祉協議会も訪問介護事業所の閉鎖や廃止に追い込まれている。
共同通信の全国調査(2023年9月)によればその数、過去5年で218箇所に及ぶとされる。このままでは、誰もホームヘルパーによる介助サービスを受けられなくなる。親が老いても、自分が老いても。