NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』が始まった。ヒロインは戦後の大スターで“ブギの女王”と称された笠置シヅ子。そんな笠置には「ブギ」をめぐり、“歌謡界の女王”美空ひばりとの「不仲説」が出回っていた。自身を引退に追い込んだともされる「確執」の真相に迫る──。【前後編の後編。前編から読む】
原因はひばりママ?
『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』(2010年、現代書館)の著者である砂古口早苗氏も「不仲説は作られたもの」だと口をそろえる。
「文献をひも解いてみても、笠置さんがひばりさんに意地悪をしたと明言しているものはない。1949年の『ヘイヘイ・ブギ』を歌わせなかったことも、出したばかりの新曲をすぐにひばりさんに歌われたら困るという真っ当な理由があります。
ハワイ巡業の際に『笠置の歌を歌うな』と言ったことも、同年に笠置さんもハワイ巡業を控えていたから。すでにスターとしての地位を確立した日本であればともかく、笠置さんを知らないハワイで、先にひばりさんに自分の曲を歌われたら、ブギはひばりさんのオリジナルの曲だと思われてしまう。『ブギを歌わないで』ということは正当な主張なのです」
そんな中で現在に至るまで、笠置サイドがまるで悪役のように語りつがれてきたのは何故なのか。砂古口氏は、背景としてひばりの母である加藤喜美枝氏の存在を指摘する。
「喜美枝さんは“元祖ステージママ”で、母親でありながら美空ひばりのプロデューサーでもあった。始終ひばりさんの横で、彼女が一番輝けるよう、主演映画のカメラワークにまで口を出したなど逸話はつきません。
ひばりさんは歌う以外のことは周囲にまかせていたため、ある意味、周囲の思うがままでした。ひばりさんのインタビューや自伝、評伝の大部分は、代弁者である喜美枝さんが話しているもの。喜美枝さんは笠置さんと同年代で大ファンだった。しかし前述の理由で、大舞台で娘が歌いたかった『ヘイヘイ・ブギ』を歌うことができず、準備をしていなかった『東京ブギウギ』を歌い苦汁をなめたことが腹に据えかね、憧れが憎しみに一転。笠置さんを『悪』と喧伝するようになり、それをことさらマスコミが煽ったのです」