10月11日に迫った将棋の王座戦第4局。藤井聡太・七冠が永瀬拓矢・王座に勝利すれば、羽生善治・九段(日本将棋連盟会長)が1996年に七冠(最新のタイトル「叡王」は2017年から)を達成して以来の「全冠制覇」達成となる。まさに「将棋界の歴史」が変わる瞬間が目前に迫るなか、50年の長きにわたってプロ棋士たちの活躍と日常を写真に収めてきた写真家・弦巻勝氏の著作『将棋カメラマン 大山康晴から藤井聡太まで「名棋士の素顔」』が発刊された。
昭和、平成、そして令和と、時代を彩る名棋士たちの姿を間近で撮影してきた弦巻氏の目に、偉業達成が見えた藤井聡太・九段はどう映るのか。弦巻氏が綴る。
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藤井聡太を輩出した「人柄の板谷門下」
藤井聡太さんの活躍が報じられるたび、僕は板谷門下の系譜を思い出す。
藤井さんの師匠として多くのメディアに登場する杉本昌隆・八段の師匠は板谷進・九段。そして板谷進さんの師匠は、父親である板谷四郎・九段だ。藤井さんにとって大師匠にあたる板谷進さんは1988年、47歳の若さで死去した。
「東海に将棋のタイトルを持ち帰る」
名古屋に拠点を置く板谷門下の悲願を実現した藤井さんを、天国の板谷進さん、そして四郎さんは目を細めて見守っていることだろう。
板谷進さんには、二枚落ちの指導対局を100回ほどしていただいた。アマチュアには明るく優しい方だが、なぜか僕を前にすると突然毒舌オヤジに変貌する。
局面が思わしくない僕を見て、板谷さんが言う。
「プロはな、やり手ババアみたいな手を指すからなあ。勝つのは大変だろ」
考えて指してもこう言われる。
「はあ〜、知恵がないってのは気の毒だね」
それでも人柄の良さは隠しきれない。藤井さんの師匠、杉本昌隆さんも真っすぐな方で、板谷門下の系譜の原点は進さんの人柄にあったと僕は思っている。