秋の深まりとともに、日が暮れるのが早くなってきた。秋の夜長、読書を楽しんでみてはいかがだろうか。おすすめの新刊を紹介する。
『伝言』/中脇初枝/講談社/1980円
1932年から1945年まで存在した満洲国。迫る敗戦も知らず、懸命に生きた人々の姿を描く。勤労奉仕する女学生の崎山ひろみ、崎山一家と親しい李夫妻、関東軍気象隊に加わる島田青年。支配と被支配の構造、731部隊の暗躍、風船爆弾、一般人が敗戦を知る前に一目散に逃げ出した軍の上層部など、史実の厳粛さはあっても、どこか優しい物語世界。孫世代による記録文学だ。
『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』/中野信子/アスコム/1397円
さみしさは惨めでも恥ずべきことでもないという。哺乳類の中で最も弱っちい人類は集団で生き延びてきた。集団だと心地よく、孤立すると不安でさみしい。制御できない「本能」と考えられるのだ。さみしさは健康リスクも高める。ゆえに肝心なのはその対処法。失恋や離別を「失った」と思わず「幸せな出会いがあった」と切り替える。これ「置き換え」思考。読書の効用も語る。
『問いを問う——哲学入門講義』/入不二基義/ちくま新書/1210円
青山学院大学の哲学教授である著者による入門書。例えば「死んだら無になるのか、それとも何かが残るのか?」という問いそのものを分解すると「死後の魂はあるのか」「死後の無は恐ろしいか」などの問いも浮かび上がってくる。哲学するとはこのように、増殖する問いに粘り強く向き合うこと(=ジグザグ運動)。白熱の議論ならぬ白熱の思考。竜巻にのまれ危うく迷子に!?
『9月9日9時9分』/一木けい/小学館文庫/1023円
タイからの帰国子女である高1の漣が一瞬で心奪われた上級生の政野朋温。彼は離婚した姉の元義理の弟。漣は家族に言えない秘密を抱えてしまい……。訳あり同級生、家族の傷、話を聞きに行く自助グループなど、会話による成長小説と言いたくなる叙述が新鮮。相手の感情から学ばなければ何も前進しない。9はタイの幸運の数字。同音で「進む」という意味の単語もあるそうだ。
※女性セブン2023年10月12・19日号