今なおDVDシリーズが売れるほど、時を超えて愛される『男はつらいよ』。50作も作られた同作の主人公はご存知「寅さん」(渥美清)だが、毎作品を彩ったのがマドンナたちだ。芸能界随一の『男はつらいよ』ファンの清水ミチコ(63)は言う。
「『男はつらいよ』は家庭の温かさや人情、恋愛のはかなさ、テンポやユーモアなども含めて、とにかく脚本が素晴らしい作品です。そして、その作品に華を添えるマドンナは、いつものとらやのメンバーに新しく投入されて、空気をガラリと変え、みんなを振り回す存在。そこで生まれる新鮮さやおかしみの中で、美しく凛としているという構図に、長年国民を飽きさせなかった理由があるのではないでしょうか」
そんな清水が語るベストマドンナは誰か? 清水は3人をあげた。
●浅丘ルリ子(83)『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(1973年・第11作)
「リリーと寅さんが結婚すればいいのにな、と本気で思っていました。寅さんとロマンチックな雰囲気になる女優さんはいても、口八丁でケンカも上等とばかりに五分に張り合えたマドンナは浅丘さんだけで、そこがよかったんですよね」
【あらすじ】
旅回りの歌手・リリーは、北海道の網走で寅さんと出会い意気投合。牧場での仕事に音を上げて柴又へ帰ってしまった寅さんと、リリーは再会を果たすが…。リリーの初登場作品で、以後第15、25、48、49作にも登場。
●大原麗子(享年62)『男はつらいよ 噂の寅次郎』(1978年・第22作)
「『寅さんって、怖い人って思ったけど本当は優しいのね』というセリフに、『なんて可愛いんだ!』とときめきました。顔もしぐさも素敵ですが、やっぱりセリフが軽やかで涼しくて、いい声だなあとファンになり、もちろんあとからモノマネしました(笑い)」
【あらすじ】
寅さんが柴又に戻った際、とらやで働いていたのが美しい店員・早苗。早苗は夫と離婚を決意し、寅さんの優しい心遣いに癒されていくが……。大原は第34作『寅次郎真実一路』でもマドンナ・ふじ子役を演じた。
●太地喜和子(享年48)『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(1976年・第17作)
「ぼたんという名前の芸者という設定が、太地さんに似合っていたことを思い出します。ロケ地にもなじんでいて本当に住んでいるように見えました。きっぷの良さや底抜けの明るさに寅さんも安心できたでしょうし、存在感が素晴らしかったです」
【あらすじ】
兵庫県龍野で、日本画の大家・青観と接待を受ける寅さんと出会った芸者のぼたん。その後、ぼたんは客だった男に貸した200万円を踏み倒されそうになり上京。憤慨した寅さんが一肌ぬぐことに。太地が姉御肌の芸者を好演。
読者2271名が選んだ「あなたの好きなマドンナは?」
『男はつらいよ』全作の台本まで読み『いま、幸せかい? 「寅さん」からの言葉』(文春新書)の編者である作家の滝口悠生氏は「ほぼ全てのマドンナが、強く、自立している女性として描かれている」と言う。
「たとえば、歌子は最初に登場した作品(第9作)で親に結婚を反対されても好きな男性と一緒に生きることを選び、次作(第13作)でその男性が亡くなってからは、自らの道を力強く歩む。1970年代に、そういう女性を吉永小百合さんに演じさせたところに、山田監督の意志を感じます」
寅さんは常に“いい女”に惚れてフラれるが、
「決してそれだけの話じゃなくて、古い女性像に対して常に抵抗していたからこそ魅力的なマドンナたちと、寅さんの物語なんだと思います。その構図は昭和44年の第1作から平成9年の第49作まで一貫していました」
と、滝口氏は語る。
そこで、女性セブンの読者2271人を対象に、『男はつらいよ』シリーズの好きなマドンナは誰なのか、アンケートを実施したところ、1位となったのが吉永小百合。読者からは、「なんといっても日本を代表する永遠のマドンナ。清楚な美しさは時代を超えています」(47才女性)、「清楚というか可憐というか…、なんとも言えないあの存在感は永久保存版だと思います」(58才女性)といった声が寄せられた。
続いて2位に浅丘ルリ子、3位に後藤久美子、4位に大原麗子、5位に八千草薫がランクインした。この中で、寅さんの甥・満男(吉岡秀隆)が思いを寄せる後輩の泉を演じたのが後藤久美子。読者からは、「優雅でありながらも力強い演技を披露し、寅さんとは対照的でありながらも、満男の人生に寄り添いながら成長していく様子が魅力的でした」(19才女性)、「寅さんに会ったときの『おじちゃま〜』の声がずっと耳に残っています」(58才女性)などの声が寄せられおり、シリーズ後期を支えた重要なマドンナと言えそうだ。
取材・文/秋月美和
※女性セブン2023年10月26日号