NHKが放送する23時台のバラエティ番組が注目を集めている。内容だけではなく、「まるで民放ドラマのような」編成も斬新だといわれている。どのような編成でそこにはどのような狙いがあるのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今秋からNHK総合テレビの23時台で、月曜に『超多様性トークショー!なれそめ』、火曜に『100カメ』、水曜に『笑わない数学』の3番組が放送されています。
『超多様性トークショー!なれそめ』は、トランスジェンダー、発達障害、養子縁組、夫婦間腎移植、性教育YouTuberなど、さまざまなカップルのなれそめをベースにしたトーク番組。『100カメ』は、K-POP養成所、産婦人科、メタバース、男子校文化祭など、週替わりの場所に100台の小型カメラを設置するドキュメンタリー。『笑わない数学』は、パンサー・尾形貴弘さんが「リーマン予想」「フェルマーの最終定理」「連続体仮説」などの難解な数学の世界を大まじめに解説する異色の知的エンタメ。いずれも民放各局のバラエティでは見られない斬新なコンセプトの番組であり、ジワジワとクチコミでファンを増やしているようです。
しかもこれらの番組が斬新なのは、放送内容だけではありません。現在の編成がスタートした昨年4月から、基本的に1クール・3か月ごとに3つの番組を入れ換えて放送されています。「クールごとに番組を入れ換える」という、まるで民放ドラマのような編成の狙いやメリットは何なのでしょうか。
狙いは若年層の視聴と配信再生数
NHKは昨年4月から23時台の番組を「若年層ターゲットゾーン」と呼んで、若年層に向けた番組を編成しはじめました。
前述したように斬新なコンセプトの番組が多いのは「若年層がターゲットだから」であり、今秋の3つ以外でも、「回転寿司MVP選手権」「ワンちゃんトリミング競技大会」「全国学校給食甲子園」など日本各地の大会を勝手に実況する『ニッポン知らなかった選手権 実況中!』、開局当初からの膨大なアーカイブを笑いを交えて大放出する『天然素材NHK』、企業の失敗を漫画や特撮などの人気キャラを使って再現する『神田伯山のこれがわが社の黒歴史』などが放送されています。
特筆すべきは、どの番組の構成・演出もゴールデン・プライムタイムと同等以上のこだわりが見られ、「繰り返し見たくなる」「思わずつぶやきたくなる」という中毒性があること。その背景には、23時からの放送をリアルタイムで見てもらうだけではなく、「無料配信の『NHKプラス』でも見てもらいたい」という狙いもあるようです。
もう1つ象徴的なのが、各番組が総合テレビの23時台でレギュラー化されるまでの道のり。実際に今秋の3番組を見ていきましょう。
『100カメ』は、2018年9月から2021年11月まで11回にわたる不定期放送を重ねてからレギュラー化。『超多様性トークショー!なれそめ』は、2022年からEテレで約半年弱を2期放送してから、総合テレビでレギュラー化。『笑わない数学』は、2022年6月に深夜帯の番組開発枠『レギュラー番組への道』でパイロット版が放送され、翌7月から早くもレギュラー化。さまざまな形で制作・放送された番組の中から、「これは23時台でいける」というものが選ばれている様子が伝わってきます。
では、なぜ1クールごとに入れ換えているのでしょうか。