香港の著名な映画俳優で、『男たちの挽歌』などで知られる周潤發(チョウ・ユンファ)氏(68)が10月初旬、韓国の釜山市で開催された第28回釜山国際映画祭の記者会見に出席。「香港の映画界は現在、全盛期から衰退しつつある。1997年の中国返還後、香港の映画産業には自由がなく、その創造性は中国の検閲によって翻弄されている」などと語り、中国の検閲によって香港の映画産業が斜陽化していると批判した。周氏が公の場で、中国の検閲に言及するのは初めて。香港各紙が報じた。
周氏は今回の映画祭で「アジア・フィルムメーカー・オブ・ザ・イヤー(アジア映画人賞)」を受賞するため釜山入りし、記者会見に出席した。周氏は「香港映画は1980年代から90年代にかけて脚光を浴びていたが、いまは韓国映画にスポットライトが当たっており、ハリウッドにも評価されている」と述べた。
そのうえで、「われわれの作品は政府部門の多くの審査に合格しなければならない」などと発言したが、いまのところ、中国では周氏の発言は報道されていない。
これまで中国政府は、中国と香港の映画会社の共同制作した映画について「過度な性描写や、幽霊、怪物、あるは悪と癒着した警官などは可能な限り排除する」などとの「国家条件」を提示しており、香港側でも、これらの要件を満たさないと、映画制作の資金を獲得するのが難しくなっている。
また、香港政府は2021年6月に施行した香港国家安全維持法(国安法)を踏まえ、同年9月の立法会(議会)で映画の検閲を厳しくする条例を可決した。
これによって、映画の中に国家の安全に不利益となる内容がないかを審査し、当局が「不合格」と判断した映画は、上映禁止だけでなく、制作者の刑事責任を問うことができることになった。
このため、香港の映画制作現場が委縮し、制作本数が激減した。香港映画産業協会によると、今年上半期の香港の興行収入は合計7億7190万香港ドル(約146億6610万円)で、同時期の中国の映画配給収入の263億元(5260億円)の約2.8%に過ぎず、香港映画の凋落傾向は著しい状況だ。