長い闘病の果てに、あるいは年を重ねて生を全うした先に、または事故によって突然に──配偶者が先立つ理由は夫婦の数だけあるが、離婚という選択をしない限り、その日を迎えなければならないという必然性は共通している。そして、その「Xデー」を迎えるのは平均寿命の長い女性がほとんどだということも。妻たちは、長く寄り添った夫を失った後の人生をどう生きるべきか。結婚した瞬間から、“その日”を見据えて歩き始めた夫婦もいる。
「私たちの結婚は“覚悟婚”でした」
真剣なまなざしで語るのは、元TBSアナウンサーの山本文郎さん(享年79)の妻・由美子(57才)。前妻に先立たれた文郎さんとバツイチだった由美子が再婚したのは2008年のこと。
「もともとブンさんとは、家族ぐるみのつきあいがあって私が小さな頃からよくしてもらっていて。実は1回目の結婚式の披露宴の司会もしてくれていたんです。だから離婚した後、ある年の年賀状に『子供と3人で暮らしています』と書いたら、心配したブンさんから電話がかかってきて。仕事をしながらひとりで子供を育てないと、と張り詰めていた気持ちが一気に緩んで涙が止まらなくて」(山本・以下同)
電話をきっかけに交際を始めたふたりだが、当初は“このまま茶飲み友達でもいいよね”と話していた。
「でも、年齢が年齢だったし具合が悪くなって入院したら、家族でないとさまざまな手続きができません。彼が生涯現役アナウンサーでいられるように生活を支え、寝たきりになろうが車いすになろうが最後まで付き添おうと決めて再婚しました。
通院につきあっていたとき、救急の処置室で具合の悪そうな男性に付き添っていた女性が『ご家族ですか?』と聞かれて、違いますと答えたら何も手続きができず帰って行った姿を見たこともあって、そのときは改めて結婚してよかったと思いました」
入籍当時の文郎さんはすでに73才。新婚生活を楽しみながらも、すぐに身辺整理を進めることになった。5つ以上あった銀行口座を1行と郵便局だけにまとめたほか、クレジットカードや株、ゴルフ会員権などを次々に手放していった。
「いちばん大変だったのは“人脈の整理”。山本は昔から人との縁やおつきあいを大切にして、毎年年賀状を2000枚送っていたんです。だけど当然、そんなに枚数があれば彼自身もうろ覚えな宛先もある。だから、『元日に届いて、一言添えていただいているかたや近年でもおつきあいのあるかたに絞りましょうか』などと相談しながら500枚に減らしました」
夫が元気なうちから亡くなることを想定して動くのは気が引ける人もいるだろうが、「元気だからこそ話せるのだと思う」と由美子は語る。