近年報告が続いているクマの目撃、被害がさらに急増している。全国で被害に遭った人は今年4月から9月までで109人と過去最悪のペースとなり、9月の被害者数は過去最多、10月はすでにその数を上回っている。最強にして最凶のクマの正体に迫る──。
10月19日、秋田県で10代から80代の男女5人が市街地でクマに襲われ腕や腰の骨を折る大けが、同日には岩手県でも70代の夫婦がきのこ採りのために入った山でクマに襲われ夫が重傷を負い妻は死亡、17日には富山県で70代女性が自宅敷地内で襲われ死亡した。東北地方だけではなく、都内や埼玉、大阪などでも目撃情報があり、被害規模は全国区だ。ふと気づいたら、目の前にクマが立ちはだかっている。そんな恐怖が現実のものとなっている。
「クマ」と言っても、北海道にはヒグマ、本州にはツキノワグマが生息している。その生態を岩手大学農学部准教授の山内貴義さんが解説する。
「ヒグマは体重150〜250kgと非常に大きく、それにくらべるとツキノワグマは大きくても100kgほど。どちらも基本的には草食ですが、ヒグマは鮭も食べます」
主な食料はどちらも葉や木の実が中心で、ドングリや桑の実、桜の実、山栗やくるみなどを好む。そうした主食とするエサがない夏は、アリやハチなどの虫も食べながら活動範囲を広げるという。通常は夏が過ぎれば山の幸を求めて奥山に行くが、今年は10月になっても目撃情報は増える一方だ。
「今年はブナの実が大凶作で、場所によってはミズナラなどのドングリも少ない。この時期は冬眠に備えて脂肪を蓄積しようとしているのですが、好んで食べる実が不作のため、食べ物を求めているうちに人間の生活圏にまで足を踏み入れてしまっているのでしょう」(山内さん・以下同)
人里まで下りてくる大きな理由に、人間の暮らしの変化がある。山内さんが続ける。
「クマと人間の境界線は年々、曖昧になっています。市街地と山との間には中山間地域と呼ばれるエリアがあり、かつては多くの人が暮らし、田畑の手入れをしていました。ところが人口減少にともない中山間地域での耕作放棄地が増え、そこに草が茂ってくる。クマはそこも山や森の一部だと捉えてやってくるようになり、結果的に都市にも近づいてきている。これはクマに限らず、シカやイノシシなどの野生動物でも同じです」