ライフ

【新刊】「夢と現実が浸食し合う強烈な暗喩小説」中村文則氏の新境地作など4冊

私達は何を競っているのだろう? 夢と現実が浸食し合う強烈な暗喩小説

私達は何を競っているのだろう? 夢と現実が浸食し合う強烈な暗喩小説

 気温も下がり、部屋の中で過ごす時間が多くなっている今日このごろ。おもしろい本を読みながら、ゆっくりとした時を過ごしてみるのはいかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。

『列』中村文則/講談社/1540円

 目的も知らず長い列を作る人々。列の中では小競り合いが起き、離脱する者がいればその分だけ前に進めたと主人公はほくそ笑む。強烈な暗喩を感じる。これは従順に競わされている現代人の似姿に違いない。第二部で主人公が霊長類の研究者であることが判明するに及んで、個と群れに関する現代のヒト縮図小説である気配はますます濃くなる。著者自ら第三期を告げる新境地作。

脳科学、心理学、教育学。各分野の知が集結した“脳を育てる言葉”

脳科学、心理学、教育学。各分野の知が集結した“脳を育てる言葉”

『その「一言」が子どもの脳をダメにする』成田奈緒子・上岡勇二/SB新書/990円

「からだの脳」(0~5歳)「おりこうさんの脳」(6~14歳)「こころの脳」(10~18歳)の順番で育てるべきとする著者。本書ではどんな言葉が脳を伸ばしたり害を与えたりするのかを○×方式で解説する。例えば「100点取ったなんて偉いわね」は×。99点ではダメと受け取る子もいるから。正解は「成長したね」。よかれと思って使っていた言葉にダメ出しがいっぱい。勉強になる。

角田氏に現代語訳を発注した池澤夏樹氏の慧眼

角田氏に現代語訳を発注した池澤夏樹氏の慧眼

『源氏物語 1』角田光代訳/河出文庫/880円

 与謝野晶子訳と比べて驚く。角田源氏の何という読みやすさ。「あとがき」にこうある。古典に明るい訳ではない自分は「源氏落ちこぼれ組」だと。それでむやみとミヤビミヤビ(雅)してないのか。木綿的簡素さが気持ちいい。本書は末摘花までを収める。末摘花の容貌をあしざまに書く紫式部の底意地の悪さ。彼女のこういう陰湿さは来年の大河でどう描かれるんだろう。楽しみだ。

シミタツ節、健在。86歳の著者が手がけたビジネス小説

シミタツ節、健在。86歳の著者が手がけたビジネス小説

『負けくらべ』志水辰夫/小学館/2200円

 シミタツ文体はやはり吸引力が凄い。初老の介護士三谷孝は顔認識や記憶力に秀で、内閣情報調査室の下請け的仕事もする。偶然知り合った米国帰りのIT起業家・大河内牟禮と心を開き合う関係になるが、グループ企業を統括する大河内の戸籍上の母が不審な動きを見せ……。戦後の闇、女の嫉妬の闇、量子コンピューターの未来。これらが溶け合うストーリーテリングに感嘆。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年11月9日号

関連記事

トピックス

精力的な音楽活動を続けているASKA(時事通信フォト)
ASKAが10年ぶりにNHK「世界的音楽番組」に出演決定 局内では“慎重論”も、制作は「紅白目玉」としてオファー
NEWSポストセブン
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
ショーンK氏が千葉県君津市で講演会を開くという(かずさFM公式サイトより)
《ショーンKの現在を直撃》フード付きパーカー姿で向かった雑居ビルには「日焼けサロン」「占い」…本人は「私は愛する人間たちと幸せに生きているだけなんです」
NEWSポストセブン
気になる「継投策」(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督に浮上した“継投ベタ”問題 「守護神出身ゆえの焦り」「“炎の10連投”の成功体験」の弊害を指摘するOBも
週刊ポスト
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
九谷焼の窯元「錦山窯」を訪ねられた佳子さま(2025年4月、石川県・小松市。撮影/JMPA)
佳子さまが被災地訪問で見せられた“紀子さま風スーツ”の着こなし 「襟なし×スカート」の淡色セットアップ 
NEWSポストセブン
第一子出産に向け準備を進める真美子さん
【ベビー誕生の大谷翔平・真美子さんに大きな試練】出産後のドジャースは遠征だらけ「真美子さんが孤独を感じ、すれ違いになる懸念」指摘する声
女性セブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン
同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン