日本人がいかに病院好きかを示すデータがある。内閣府の調査(2021年)によれば、高齢者で「月に1回以上、病院や診療所に行く人の割合」は、アメリカは2割、ドイツは3割、スウェーデンは1割なのに対して、日本は6割。またOECDの統計(2018年)では、日本は入院・外来を行う病院の数が8000以上と、世界でもっとも多い。国立がん研究センターで40年以上がん医療に携わってきた医療法人社団進興会理事長の森山紀之さんが言う。
「がんの入院治療が終わった患者に退院をすすめても、“万が一のことがあるといけないから、もう少し入院させてほしい”と言う人は少なくありません。不安になりやすい国民性に加えて、国民皆保険制度による金銭的な負担の軽さが、日本人を病院好きにしているのでしょう」
もちろん、誰でも必要なとき、すぐに病院にアクセスできるのは素晴らしいこと。だが一方で、病院に行きすぎることによって弊害があることを忘れてはいけない。
まず懸念すべきは、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症にかかる確率が上がることだ。 都内在住の専業主婦、Tさん(45才)は、いまも自責の念を抱えている。
「高3の息子がかぜ気味だったので病院に連れて行ったら、3日後に発熱。病院から“待合室で一緒だったお子さんが、コロナに感染していました”と連絡を受け、検査したら息子も私も陽性でした。そのせいで、息子は大学の推薦入試を受けることができなくなってしまいました。来年一般受験しますが、あのとき病院に行かなければ……」
新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんは「病院内で感染症にかかるリスクは非常に高い」と指摘する。
「実際、アメリカの調査でも院内感染は死亡原因の上位にランクインしています。軽いかぜ程度ならいいですが、中には抗生剤が効かないような感染症で亡くなる人もいる。ちょっとしたことで病院に行くのは、自ら病気にかかりに行くようなものです」(岡田さん)
コロナ禍では「病院の待合室で感染してしまうかもしれない」という意識が広まった。だが5類感染症に移行してからはその危機感が薄れてきていると、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは話す。
「コロナ禍で感染者を適切により分けるためにつくられたはずの発熱外来にはいまや“熱があるから優先的に診てもらいたい”と言わんばかりの人たちであふれています。そのせいで無用な院内感染が起こるばかりか、医療の逼迫が改善されていないという問題もある。日本人特有の“とりあえず病院で診てもらおう”という意識が引き起こしている事態だと言えるでしょう」
持病がある場合や40℃近い高熱が出ている場合は、早急に病院へ行くべし。だがそれ以外なら意味がないどころか、さらに別の病気をもらってしまう可能性さえある。愛媛県の会社員・片田美紀さん(56才・仮名)がため息をつく。
「頭痛がして微熱もあったので念のため病院で薬をもらおうと内科を受診しました。翌朝、突然の吐き気と下痢に襲われ、熱も38℃を超えました。どうやら診察を待っている間に使用したトイレで、ノロウイルスに感染した人が嘔吐して、それを自分で処理していたらしいんです。こんなことになるなら自宅で安静にして市販薬をのめばよかった」
※女性セブン2023年11月9日号