NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。戦後の大スターで“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子をモデルにしたヒロインを演じるのは、4度目のオーディションで朝ドラのヒロイン役を掴んだ趣里(33)だ。父親は水谷豊、母親は伊藤蘭という芸能サラブレッドでもある彼女には、女優としての転機となった主演作があった。同作の監督が、知られざる趣里の原点と、水谷との知られざる秘話を明かす。
趣里はこれまで朝ドラには『とと姉ちゃん』(2016年)で仕事と育児の両立に悩む社員役で出演し、『リバース』(TBS系、2017年)や『ブラックペアン』(同、2018年)など個性的な脇役でドラマ通の間では知られた存在ではあった。
なかでも趣里が七光りに頼る“二世俳優”ではないことを知らしめたのが、本谷有希子の同名小説を映画化した『生きてるだけで、愛。』(2018年公開)だ。同作が長編初監督となった関根光才氏は趣里との出会いについてこう振り返る。
「当時、挫折しかけたほど主演の女優探しに苦労していたところ、手を挙げてくれたのが趣里さんでした。僕はその頃、彼女のことを知らなかったので出演作を色々と観て、演技のスキルがかなり高いことを知り、演技の中に魂を込められる人だと感じたんです。
ただ、『生きてるだけで、愛。』の主人公は心に問題を抱える女性だから、演じる女優その人の人生にも悩みや葛藤がいかにあり、どんな経験をしてきたかが大事である。だからこそ趣里さん自身にも何があるのか気になるところだと説明しました。さらに寝てばかりの自堕落な生活を送る主人公に対して、非常に華奢で幼い雰囲気のある趣里さんが配役のイメージと少し違っていることも話したところ、『しばらく時間をください』と」
数か月後に、関根氏は趣里と再び対面した。
「人生をさらけ出してくれました」
「2回目にお会いした時に、趣里さんがバレエで留学したものの大きな怪我で挫折したこと、その後には自分も主人公と同じように寝込む時期があったこと、だからこそ主人公にシンパシーを感じていること、自分が演じることでなにか葛藤を抱えている人を支える力になれればという思いや、個人的な話もしてくれました。ご両親の話も出たかもしれませんが、僕にとってそこは覚えていないほど重要ではなかった。彼女は自分自身の人生をさらけ出してくれました」(同前)