大正から昭和の激動の時代、歌に踊りにひたむきな小柄のヒロインから溢れ出る眩しいほどのエネルギー。NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』で、「福来スズ子」に魅了される視聴者が急増している。
“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子をモデルにしたヒロイン・スズ子を演じるのは33歳の趣里だ。募集年齢の上限ギリギリで「最後のチャンス」と挑んだオーディションで、ヒロイン役を掴んだ。
これまで朝ドラには『とと姉ちゃん』(2016年)で仕事と育児の両立に悩む社員役で出演し、『リバース』(TBS系、2017年)や『ブラックペアン』(同、2018年)など個性的な脇役でドラマ通の間では知られた存在ではあった。その趣里が朝ドラのヒロインに抜擢された際には「王道ヒロイン像」とは違う雰囲気に不安視する声もあったが、見事に覆した格好だ。『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』の著者で朝ドラウォッチャーの田幸和歌子氏が語る。
「トップスター役の蒼井優さんはじめ華やかな団員がいるなかで、まだヒロインは実力もなく歌や踊りを模索している状況です。にもかかわらず、趣里さん演じるスズ子からは華奢だけどものすごくエネルギッシュな魅力が画面越しに伝わってくる。いずれスター歌手になると予感させられます。今回の朝ドラは観る人を明るく照らすような作品だと実感しています」
「笠置シヅ子が目に浮かぶ」
劇中ではまだダンスが不得意という設定だが、趣里はバレエでロンドンに留学したほどの本格派。怪我によってその道は断念したものの、ダンスの実力も十分だ。そして彼女を語る上でついて回るのが、「両親」。父親は水谷豊、母親は元キャンディーズの伊藤蘭という芸能サラブレッドである。田幸氏は『リバース』の趣里に強烈なインパクトを受けて調べてみたことで初めて大物芸能人の娘と知ったという。
「趣里さんは事務所を出てフリーで活動していた時期もあります。お父さんの事務所に入ったり、両親の力添えを受けたりすればもっと早くメジャーな作品で主要な役をもらって知名度を上げたかもしれませんが、趣里さんは親の名前ではなく、自ら切り拓いてきました」
なかでも趣里が七光りに頼る“二世俳優”ではないことを知らしめたのが、2018年に公開された主演映画『生きてるだけで、愛。』だ。同作が長編初監督となった関根光才氏はこう振り返る。
「当時、挫折しかけたほど主演の女優探しに苦労していたところ、手を挙げてくれたのが趣里さんでした。彼女のことは知らなかったので出演作を色々と観て、今作の主人公は心に問題を抱える女性だから演じる女優その人の人生にも悩みや葛藤があり、どんな経験をしてきたかが大事であることを説明しました。華奢で幼い雰囲気のある趣里さんが配役のイメージと少し違っていることも話したところ、『しばらく時間をください』と」