いよいよ肌寒くなってきた。ブルブル震える寒さで血管は縮こまり、血圧も上がりやすい。医師のなかには「冬だけ薬を増やしましょう」と言う人も──。でも、本当にそれでいいのか。降圧剤を飲み続けることの副作用や、リスクについては当の医師たちの間からも、疑問の声が上がっている。
監修・取材
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。著書に『80歳の壁』(幻冬舎刊)、『「さびしさ」の正体』(小社刊)などがある。
銀座薬局代表 長澤育弘薬剤師
高血圧治療専門 桑島巖医師
薬の効果とリスクを改めて理解する
一口に降圧剤と言っても作用の仕組みはタイプによって異なるうえ、同じタイプでも成分の違いで作用時間などの特徴や副作用が変わってくる。降圧剤を将来的に減らしたいと考えるなら、服用中の薬のリスクとベネフィットを改めて理解する必要がある。
薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)監修のもと、高血圧と診断された患者が処方されることの多い「第一選択薬」、そこに別の薬を追加する際の「第一次併用薬」、特殊なケースで使われる「第二次併用薬」の3つに分けて医師の処方パターンとともに図解した。
図ではそれぞれのタイプの降圧剤について降圧力や効き方の特徴、主な副作用を解説。自身が服用する薬と照らし合わせていただきたい。
原因が違えば薬も異なる。パンパン型とギュウギュウ型
高血圧治療の専門家である桑島巖医師が言う。「高血圧はその原因により大きく2つに分けられます。
1つ目は血中の塩分濃度が高いことで(それを薄めるために)血液量が増え、血管が内側から拡がる『パンパン型』。
2つ目は腎臓から分泌される物質レニンによって作られる成分アンジオテンシンIIが血管を収縮させ、血管が細く狭まる『ギュウギュウ型』です。患者さんそれぞれの高血圧の原因に合わせた薬を飲まないと、血圧はうまく下がりません」
第一選択薬として国内で最も処方が多いのが、カルシウム拮抗薬(アムロジピンべシル酸塩、ニフェジピンなど)だ。
「日本の高齢患者の約7割は塩分摂取が原因で血管が膨れあがる『パンパン型』です。高齢者では腎機能や心機能が低下する傾向があるため塩分が排泄しにくいので、血管拡張作用以外に利尿作用もあるカルシウム拮抗薬が効果的です」(同前)
カルシウム拮抗薬の次に処方量が多いのがARB(アジルサルタン、オルメサルタンメドキソミルなど)だ。
「カルシウム拮抗薬より降圧力は劣りますが、60歳以下の比較的若い年齢の患者さんで、腎臓から分泌されるレニンが活発な人(高レニン)、つまり『ギュウギュウ型』の人にはARBは非常に有効です」(同前)
ただ、海外ではARBと同じ仕組みで血圧を下げるACE阻害薬(エナラプリルマレイン酸塩、イミダプリル塩酸塩など)のほうが多く処方されているという。
「日本ではACE阻害薬の副作用である空咳を訴える患者さんが多く、その点が敬遠されて第一選択薬の3番手になっています」(同前)
これらは医師が「最初に処方する薬」の代表格だ。高い降圧効果が期待されるが、注意すべき副作用もある。
「カルシウム拮抗薬には稀に歯肉肥大という歯茎の腫れや、浮腫み、ほてり感などがあります。また長時間作用型のARBは、腎機能障害のある患者に使うと、腎機能が急激に悪化する恐れがあります」(同前)
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降圧剤として処方される薬一覧をまとめた。
降圧剤で処方される 第一選択薬 の種類
処方で最も多いCa拮抗薬と次に多いARBがファーストチョイスの大半を占める。Ca拮抗薬とARBかACE阻害薬、あるいは逆の組み合わせでも第一次併用薬となる
(主な一般名/降圧力/特徴/主な重大な副作用)
カルシウム拮抗薬
血管収縮時に細胞内に流れ込むカルシウムイオンの流入を抑え、血管を拡げて、血圧を下げる
アムロジピンベシル酸塩 ★★★★ 長時間作用、有効性高い/劇症肝炎、肝機能障害、横紋筋融解症など
ニフェジピン ★★★★ 比較的速やかな降圧/無顆粒球症、一過性意識障害、肝機能障害など
アゼルニジピン ★★★☆ 長時間作用/肝機能障害、黄疸、房室ブロックなど
ベニジピン塩酸塩 ★★★☆ 比較的降圧作用緩やか/肝機能障害、黄疸
シルニジピン ★★☆☆ 頻脈が少ない傾向/肝機能障害、黄疸、血小板減少など
ARB
血管を収縮させて血圧を上げる神経伝達物質・アンジオテンシンⅡが受容体に結合するのを防ぎ、血管を拡げて、血圧を下げる
テルミサルタン ★★★☆ 極めて長時間作用/高カリウム血症、腎機能障害、肝機能障害など
カンデサルタン シレキセチル ★★★☆ 長時間作用、心不全に適応/意識消失、急性腎障害、高カリウム血症など
オルメサルタン メドキソミル ★★★☆ 長時間作用、効果発現緩やか/高カリウム血症、意識消失、腎不全など
バルサルタン ★★☆☆ 薬物の半減期が短い/腎不全、高カリウム血症、意識消失など
アジルサルタン ★★★★ 強力で長時間作用の第二世代/意識消失、急性腎障害、高カリウム血症など
ACE阻害薬
アンジオテンシンⅡが作られるのを防ぎ、血管を拡げて、血圧を下げる
エナラプリルマレイン酸塩 ★★★☆ 心保護作用、古くから使用/高カリウム血症、急性腎障害、肝機能障害など
イミダプリル塩酸塩 ★★☆☆ 比較的長時間作用/急性腎障害、膵炎、高カリウム血症など
ペリンドプリルエルブミン ★★☆☆ 長時間作用型の中でも長い/呼吸困難、高カリウム血症、急性腎障害など
作用が弱かった場合に追加 第一次併用薬
単剤では降圧目標の数値に到達しない場合、多剤併用が必要となる。少量の利尿薬は、どの第一選択薬と組み合わせても有効。第一選択薬がCa拮抗薬の場合はβ遮断薬も併用される
β遮断薬
血圧を上げる神経の働きを抑えて、血圧を下げる
ビソプロロールフマル酸塩 ★★☆☆ 徐脈作用が強い/心不全、完全房室ブロック、高度徐脈など
アテノロール ★★★☆★☆ 徐脈作用が強い/徐脈、心不全、起立性低血圧など
利尿薬
体内の塩分と水分の排出を促し、血圧を下げる
フロセミド ★☆☆☆ 利尿作用が強い/ショック、再生不良性貧血、無顆粒球症など
ヒドロクロロチアジド ★★☆☆ 利尿作用発現は緩やかで持続/再生不良性貧血、間質性肺炎、肺水腫など
持病の兼ね合いで分けられる 第二次併用薬
Ca拮抗薬の第一次併用薬が利尿薬の場合はARBかACE阻害薬、β遮断薬も併用。ARBかACE阻害薬の第一次併用薬が利尿薬の場合はα1遮断薬も併用される
α1遮断薬
血圧を上げる神経の働きを抑えて、血圧を下げる
ドキサゾシンメシル酸塩 ★★☆☆ 朝の高血圧に就床前投与/失神・意識消失、不整脈、脳血管障害など
プラゾシン塩酸塩 ★☆☆☆ 排尿障害治療での使用が多い/一過性の血圧低下に伴う失神・意識喪失など
※降圧力は『日経ドラッグインフォメーション』の「主なCa拮抗薬の特徴」「ARBそれぞれの特徴」「利尿薬の特徴」などを参照し、長澤育弘薬剤師が監修。特徴、主な重大な副作用は『治療薬ハンドブック』などをもとに本誌作成
処方された意図を確認する
単剤で降圧効果が出ない場合、「別のお薬も足しましょう」と追加されることになる。
「その際もまずは第一選択薬がカルシウム拮抗薬ならARB、またはその逆というように組み合わされます。それでも効かない場合、ARBと相性の良いサイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)が選ばれます」(同前)
一方で、さらにその先の選択肢となる「第二次併用薬」のα1遮断薬が提案されたら、医師にその意図を確認する必要がありそうだ。桑島医師が言う。
「α1遮断薬は早朝の一過性の高血圧に有効とされますが、十分なエビデンスはなく、ほかの組み合わせで血圧が下がらない場合の窮余の一策として処方されている。効果はあまり期待できません」また降圧剤の効き方は年齢によって変わるため、高齢者が服用を避けるべきケースがある。日本医師会や日本老年医学会が提起する「75歳以上には慎重に投与する薬」には、利尿薬やβ遮断薬、α1遮断薬のいくつかが含まれている(図参照)。
これらの薬は降圧剤としてではなく、別の疾患の薬として処方されるケースもあるので注意したい。長澤氏が言う。
「β遮断薬は心不全などの予後を改善されると考えられており、高齢の患者に処方されるケースが少なくない。前立腺肥大によって排尿障害があれば、排尿障害治療薬でもあるα1遮断薬が処方されることもある。これらの薬に『降圧作用がある』ことを知らずに飲む患者さんがいますが、薬が効き過ぎて副作用が出るリスクには十分気をつけてほしい」
自分が飲んでいる降圧剤は本当に身体に合っているのか。少しでも疑問があれば、医師への相談が欠かせない。
※週刊ポスト2023年11月10日号