国内

【絶え間なく続く中傷】池袋暴走事故遺族が告白する“1.4億円賠償”の虚しさ「家族を失った心の隙間は埋まらない」

家族3人で写真におさまる松永さん一家。左から、真菜さん、莉子ちゃん、拓也さん

家族3人で写真におさまる松永さん一家。左から、真菜さん、莉子ちゃん、拓也さん

「判決が出て、ようやくひと区切りと思った矢先に、まさか殺害予告を受けるなんて……。警察から連絡をもらってからは外出も控えていますし、真菜と莉子のお墓にも行けていないんです」──そう言って肩を落とすのは松永拓也さん(37才)だ。松永さんは2019年4月、東京・池袋で起きた車の暴走事故で、最愛の妻・真菜さん(享年31)と娘の莉子ちゃん(享年3)を同時に失った。

 10月27日、そんな松永さんら遺族が原告となった民事訴訟で、東京地裁は事故を引き起こした飯塚幸三受刑者(92才)とその保険会社に、約1億4000万円を支払うよう命じる判決を下した。松永さんが長い時間をかけた裁判が一段落した瞬間だった。しかし、この判決により、松永さんはネットでの誹謗中傷に晒されることになってしまう。もっとも、これまで猛烈な批判を受けてきたのは、加害者の方だった。

 車を暴走させた飯塚受刑者は旧通産省・工業技術院の元院長。事故後すぐに逮捕されなかったため、「上級国民への特別待遇だ」と不満の声が上がった。さらに、飯塚受刑者が暴走は「ブレーキの故障」が原因だと主張し、遺族や被害者に謝罪しなかったことから、非難の嵐が吹き荒れた。

 その後、飯塚受刑者は過失運転致死傷罪に問われ、2021年に禁錮5年の実刑が確定した。ところが、前述の民事訴訟の判決が報じられるや、風向きは一変。翌28日には、暴力団を名乗る男から警視庁本部に「年のいった受刑者に金を払わせるのはおかしい。近いうちに松永を殺す」という匿名の脅迫電話があったのだ。さらに、松永さんにも絶え間なく中傷が届く。

「『うらやましい』『代わってほしい』というものから、『妻と娘が大金に変わったな』など、見るに堪えないものが多いです。私は真菜と莉子の命が返ってくるなら、お金なんて一銭もいりません。大金が支払われたとしても虚しい気持ちで、家族を失った心の隙間は埋まらない。これしか方法がないから賠償請求をしたんです」(松永さん)

 そもそも「受刑者に金を払わせる」というのはまったくの勘違いで、実際に支払うのは保険会社だ。松永さんもこうした誤解が広がっていることを感じ取ったという。

「脅迫した人も勘違いしているなと感じましたし、自衛のために、飯塚氏とは直接金銭のやり取りは発生しないことを発信しました」(松永さん)

 このように誤った情報が際限なく広がり、脅迫にまでエスカレートしてしまうのが、ネット世論の恐ろしさだ。ITジャーナリストの井上トシユキ氏が解説する。

「ネット世論では逆張りというか、多数派に対して逆を行く主張を展開し、承認欲求を満たそうとするケースがよく見られます。松永さんはSNSで情報発信し、高齢ドライバーの暴走の危険性を周知するよう努めていますが、一般人が目立つと見当違いの批判をぶつけ、絡んでくる輩が出てきてしまうのです。

 こうした見当違いの批判が出てくる背景には、抑圧された人たちの存在がある。有名になった一般人を叩くことでマウントをとり、上の立場に立つような感覚に浸っているのではないでしょうか」

関連記事

トピックス

復興状況を視察されるため、石川県をご訪問(2025年5月18日、撮影/JMPA)
《初の被災地ご訪問》天皇皇后両陛下を見て育った愛子さまが受け継がれた「被災地に心を寄せ続ける」  上皇ご夫妻から続く“膝をつきながら励ます姿”
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
武蔵野陵を参拝された佳子さま(2025年5月、東京・八王子市。撮影/JMPA)
《ブラジルご訪問を前に》佳子さまが武蔵野陵をグレードレスでご参拝 「旅立ち」や「節目」に寄り添ってきた一着をお召しに 
NEWSポストセブン
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
オンラインカジノの件で書類送検されたオコエ瑠偉(左/時事通信フォト)と増田大輝
《巨人オンラインカジノ問題》オコエ瑠偉は二軍転落で増田大輝は一軍帯同…巨人OB広岡達朗氏は憤り「厳しい処分にしてもらいたかった。チーム事情など関係ない」
週刊ポスト
1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
「週刊ポスト」本日発売! 自民激震!太田房江・参院副幹事長の重大疑惑ほか
NEWSポストセブン