だが、それからわずか3か月ほどでその関係に亀裂が入ることになる。
「1949年1月、ひばりさんは念願だった日劇の小ホールで行われる公演に出演することになりました。まだデビュー前だった彼女は、笠置さんの新曲『ヘイヘイブギー』を歌うつもりで準備していたのですが、本番直前に笠置さんサイドから“『東京ブギウギ』ならいい”と通達されたのです」(砂古口さん)
突然別の曲に変更させられたひばりさんは、練習していなかったために歌い出しを失敗してしまい、楽屋で悔し涙を流したというエピソードが残っている。2人の「因縁」はそれだけではない。
「1950年6月から笠置さんがアメリカツアーを行うことを知ったひばりさんサイドが、その1か月前の5月からアメリカツアーを行うことを決めました。ひばりさんの渡米直前でその事実を知った笠置さんサイドは、偶然とは思えない日程のバッティングに困惑。ひばりさんがアメリカで笠置さんの曲を歌うことを禁じたのです。それには持ち歌の少ないひばりさんは困り果てて、結果的にはアメリカで笠置さんのブギを歌ってしまいました」(砂古口さん)
その後、2人の確執をあおるような記事を芸能雑誌などが書き立て、この因縁は世間に広く伝えられることになった。事態を重く捉えたひばりさんのマネジャーは、笠置さんとタッグを組んでいた作曲家、服部さんの元へと向かい、いままでの不義理を謝罪。そして「和解」へと舵を切ることになる。
『ブギウギ』の原案本には約30ページにわたり、笠置さんとひばりさんのエピソードが綴られている。しかし、ひばりさんが登場する気配は一向に見えてこない。前出の芸能関係者が話す。
「実はNHKは、これまでもひばりさんを正面から描くことを避けてきた。たとえば今年8月にBSプレミアムで放送された単発ドラマ『アイドル』は、戦前から戦中にかけて人気を博した明日待子が主人公。ラストにはブレーク前の美空ひばりさんを思わせる『美空和枝』が登場しましたが、いわゆる“チョイ役”でした」
歌い手としての美空ひばりがこれまで登場してこなかった状況に、「あくまでも臆測ですが……」と前置きした上でテレビ局関係者が明かす。
「ひばりさんの実弟、かとう哲也さんは歌手としてデビューし、舞台や映画にも出演しましたが、賭博や銃砲不法所持などで何度も検挙され、暴力団の舎弟頭だと名乗ったことも問題になった。
ひばりさん自身も暴力団関係者と懇意であることを隠さず、それを問題視したNHKは1973年の紅白で彼女を落選させた。そんなバックグラウンドがあるため、ドラマでひばりさんを描くのは難しいのかもしれません」
ひばりさんの長男である加藤和也さんに、彼女の『ブギウギ』への出演がないかを問うと、「NHKからは特にご連絡を受けておりません」と答えた。
11月2日の『女性セブン』では、ひばりさんと笠置さんの関係を悪化させたひばりさんの母親の存在、ほとんど共演経験のなかった笠置さんがひばりさんについて語ったとみられる「唯一の言葉」などについて詳報している。