11月に入り本格的な紅葉シーズンを迎えた。紅葉狩りのお供に持って行きたいおすすめの新刊を紹介する。
『半暮刻』/月村了衛/双葉社/2090円
893よりもタチが悪いとされる半グレ。その半グレ城有(白蟻だ)の経営するホストクラブで出会った翔太と海斗は女性を風俗に落として名を上げる。が、摘発で明暗が。翔太は服役、家柄も大学も一流の海斗はすり抜け広告代理店に就職。本書にはもう一つの対比がある。マニュアルの言葉と文学の言葉だ。悪を超える邪悪の存在。この国にはびこる人品の格差も思わずにいられない。
『喫茶おじさん』/原田ひ香/小学館/1650円
著者の小説の特徴は喉滑りがいいこと。松尾純一郎、57歳。早期退職して喫茶店経営に挑むも、あえなく敗退。そんな傷にもめげず純喫茶巡りを趣味にする中、大学生の娘、元妻、元会社のエリート同期、喫茶店開業教室の仲間だったカフェ経営の女性などに「何もわかってない」と連打される。とどめは別居中の現妻。さ、純一郎どうする!? 喫茶店巡りが楽しく着地点も晴れ晴れ。
『藤井聡太のいる時代 最年少名人への道』/朝日新聞将棋取材班/朝日新聞出版/1650円
この10月、永瀬拓矢王座から王座を奪い史上初の八冠制覇を成し遂げた21歳の青年。独占の今何と呼ぶべき? 冠には序列があり高位の称号で呼ぶ。従来通り藤井聡太竜王・名人でいいとか。本書は告げる。「藤井聡太のいる時代」から「藤井聡太の時代」になったと。2020年8月〜2023年6月の名人戦まで収録。読みながら鏡を見たら孫の活躍にとろけるばっちゃん顔になっていた。
『日没』/桐野夏生/岩波現代文庫/990円
小説家マッツ夢井の元に「文化文芸倫理向上委員会」から召喚状が来る。出頭すると、療養所という名のそこは切り立った崖上の収容所に変容し……。解説はロシア文学者の沼野充義氏。教育の右傾化や日本学術会議任命拒否(未解決)など、オーウェルの『1984』的悪夢はすでに始まっているかもしれないと書く。密告、監視、収容、矯正。個を潰す国家の朗らかな意志に戦慄する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年11月16日号