9月場所で優勝した大関・貴景勝が、11月場所で綱取りに挑む。稀勢の里(現・二所ノ関親方)以来となる日本出身横綱の誕生が期待される一方、大相撲を長く愛してきたファンや重鎮からは厳しい注文が飛んでいる。【前後編の前編。後編を読む】
3度目の綱取り場所を前にした貴景勝だが、好角家たちからは厳しい評価を受けている。桟敷席で観戦する姿が大相撲中継に映り込むのがお馴染みのコメディアン・大村崑氏は「貴景勝も“大関病”ですね」とため息をつく。
「大関になって伝達式でフラッシュを浴び、騎馬戦みたいなスタイルで記念写真を撮ると、それでホッとするのか、地位を守ろうと上を目指していた頃の相撲を見失ってしまう。それが“大関病”です。
休場とカド番を繰り返して成績が安定しない貴景勝がカド番明けに一度優勝したからといって、綱取りなどと持ち上げるべきではないでしょう。どんな化け物が相手でも受けて勝つのが横綱。その意味では、貴景勝の先場所の優勝決定戦の注文相撲はいただけない。典型的な“大関病”の症状です」
横綱昇進の基準は相撲協会の内規により「大関で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」と定められている。9月場所で自身4度目の優勝を果たした貴景勝だが、11勝4敗という成績は過去4例目の最低成績での賜杯となった。その成績もさることながら、大村氏の指摘した「優勝決定戦の取り口」に批判が集まっている。
前頭15枚目ながら11勝あげた21歳の新鋭・熱海富士が立ち合いから勢いよく突っ込んできたのに対し、貴景勝は左へ変化。まさかのはたき込みにより、幕内最高優勝を決める一番は一瞬にして決した。
横綱審議委員会の山内昌之委員長は場所後に「多くの条件や前提が満たされた場合、(貴景勝に)綱取りの期待がかかる場所ではないか」とフォローしたものの、八角理事長(元横綱・北勝海)や佐渡ヶ嶽審判部長(元関脇・琴ノ若)らは相撲内容に落胆のコメントを出し、ファンからも批判の声が相次いでいる。漫画家のやくみつる氏の言葉は手厳しい。
「(先場所の優勝は)ノーカウント。記録には残しても、むしろ“賜杯をあげなければよかったのに”と思う。性根が腐っています。11月場所で堂々とした自分の相撲で優勝をしたら、そこから綱取りの挑戦がスタートするくらいでいいんじゃないですか」
長い大相撲の歴史のなかで、安定感に欠ける突き押し一辺倒の力士が横綱に上り詰めた例は稀だ。押し相撲ばかりの貴景勝の昇進を不安視する声が多いのは、そのあたりも関係しているだろう。
(後編へ続く)
※週刊ポスト2023年11月17・24日号