9月場所で優勝した大関・貴景勝が、11月場所で綱取りに挑む。稀勢の里(現・二所ノ関親方)以来となる日本出身横綱の誕生が期待されるが、大相撲を長く愛してきたファンや重鎮からは厳しい注文が飛んでいる。一方では相撲協会の思惑もあって……。【前後編の後編。前編から読む】
痛烈な批判の数々は、貴景勝を思ってのものでもあるはずだ。貴景勝が綱取りを果たせば、稀勢の里が2019年1月に引退して以来の日本出身横綱の誕生となる。しかし、「綱取り前後の稀勢の里が置かれた状況と重なることが、むしろ心配でならない」とするのは若手親方のひとりだ。
2016年11月場所で稀勢の里は当時のモンゴル出身3横綱(白鵬、日馬富士、鶴竜)を破ったものの、優勝した鶴竜に星2つの差をつけられた12勝3敗での準優勝だった。ところが、翌2017年1月場所では“優勝すれば19年ぶりの日本出身横綱が誕生だ”と盛り上がり、番付発表前から前売り券が完売する大騒ぎに。本場所では2横綱の途中休場もあって稀勢の里が14勝1敗で優勝し、「2場所連続優勝に準ずる」という“甘い評価”で横綱昇進が決まった。
「しかし、モンゴル勢に狙い撃ちにされるようなかたちになり、稀勢の里は翌3月場所の日馬富士との一番で左肩を負傷。その場所こそ奇跡の優勝を果たすも、それ以降は休場ばかりになった。代名詞でもあった左からの強烈なおっつけは見られなくなり、人気は沸騰したのに短命に終わった。昇進のハードルを下げても、いいことはない」(前出・若手親方)
平成以降、横綱に昇進した力士は、昇進直前2場所で26勝以上の勝ち星を挙げている。“ハードルが下げられた”といわれる稀勢の里でも「12勝+14勝=26勝」には到達していた。先場所が11勝での優勝となった貴景勝がその水準に達するには、15日間を「全勝」する以外にない。相撲取材歴70年の元NHKアナウンサー・杉山邦博氏は「今場所の貴景勝については、全勝優勝の場合に限って横綱昇進を議論されてもいいと思います」と話した。
「大関や横綱は、会社でいえば重役です。それが若者の初めての挑戦を受ける一番だというのに、姑息な手段で自らの地位を守っただけでなく、それにより番付を高めようなどというのは、大相撲のあるべき精神からはおよそ外れている。
もちろん、貴景勝がケガを抱えるなどして何度もカド番に立たされながら、本場所に出場して大関の責任を果たしてきたことについては評価しています。先場所、優勝できたのもよかったと思いますが、昇進を議論するレベルの勝ち方ではありませんでした。1400年の歴史を受け継いできている大相撲の横綱になるというのは、“2場所連続優勝かそれに準ずる成績ならいい”といった、数字合わせのような話ではないと思います」