肌の調子を整えるために欠かせないスキンケア。ドラッグストアやデパートにズラリと並ぶ無数の商品の中から“相棒”を選ぶ際、「美容成分」を重視して選ぶ人が増えている。しかし、あいこ皮フ科クリニック院長の柴亜伊子さんは、そこに落とし穴が存在すると警鐘を鳴らす。
「美容成分の中にはアレルギーを引き起こす可能性があるものや、実は日本人の肌に合っていないもの、うたい文句だけが立派で効果が薄いものがある。正しい知識のもと、しっかり見極める必要があるのです」
時間とお金をかけたせっかくのスキンケアが水の泡どころか逆効果にならないために、美容成分の「ウソ」を知っておきたい。
目次
口に入れるものは皮膚に塗らない。アレルギーのリスク
まず、“話題の成分”は目に留まりやすいからといって過信してはいけない。抗酸化作用、コラーゲン合成促進、毛穴引き締めなどさまざまな効果があるとされる(1)ビタミンC誘導体のブームが続いているが、誘導体の種類や肌質によってはかえって肌荒れの原因になると、美容・医療ジャーナリストの海野由利子さんは話す。
「皮脂の分泌を抑える働きが強いものを使うと、肌の乾燥が悪化し、軽い炎症を起こすことがあるので、使用後の肌の状態をよく観察する必要があります」 保湿剤などに含有され、肌を健康に保つとされる天然乳化剤の(2)レシチンも、自分の肌の調子を見つつ使用すべきだ。
「大豆や卵黄にも含まれている成分ですが、人によっては刺激となり、かゆみが出ることもあります。
レシチンに限らず、(3)植物エキスや(4)食べ物エキス配合のものを使用すると、皮膚に炎症を起こしたり、アレルギー反応が起きる可能性があります。肌のトラブルだけではなく、食物アレルギーを起こすリスクもあるため、そういった成分が含まれているものを使うのは危険です」(柴さん・以下同) 添加物が含まれない、いわゆる“オーガニック”の天然素材こそ、自己判断で使用するのは避けた方がいい。
「欧米では(5)ピーナッツオイルを使用したら、ピーナッツアレルギーを発症したという報告があった。日本人になじみがある(6)アロエも、シュウ酸カルシウムでできた針のようにとがった結晶成分が含まれているため、刺激の原因になることがあります。“口に入れるものは皮膚に塗らない”を意識することをおすすめします」
ドラッグストアで人気の韓国コスメの中にも気をつけるべき成分がある。
「(7)ダメージを受けた肌への鎮静作用があるとして注目を集めているシカです。シカはツボクサエキスというハーブエキスであり、韓国では昔から傷治療の薬としても愛用されてきたといわれていますが、実は美容に効果があるとされる明確な医学的データはなく、逆に製造方法によっては皮膚に炎症やアレルギーを引き起こす可能性があります。 実際に、シカが含まれたクリームを使用したところ、顔にできた大きいニキビが悪化した患者もいました」
保湿剤として有名な(8)グリセリンも、ニキビを悪化させる原因となりうると田中病院院長の田中優子さんは指摘する。
「グリセリンはニキビを発生させるアクネ菌のエサになることが明らかになっています。保湿剤としては優れた成分ではあるものの、ニキビのひどい人は使用するのは避けましょう」
敏感肌の人が特に注意すべき美容成分6つ
(美容成分名/理由)
ビタミンC誘導体/さまざまなタイプがあり、皮脂の分泌を抑える効果が大きいものを、乾燥肌や敏感肌の人が使った場合、悪化して炎症を起こすことがある。
レシチン/刺激が強く、人によってはかゆみが出る。 植物エキス、食べ物エキス/化粧品成分と認められていても、アレルギー反応が起きる可能性がある。
ピーナッツオイル/「口に入れるものは肌に塗らない」が基本。特にピーナッツオイルはピーナッツアレルギーを発症する可能性があるため要注意。
アロエ/シュウ酸カルシウムでできた針のようにとがった結晶成分によって、皮膚がかぶれる場合がある。
シカ/製造方法によっては皮膚に炎症やアレルギーを引き起こす可能性がある。
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「高濃度」がいいとは限らない
成分そのものに加え、パッケージのうたい文句の中にもカラクリが潜む。たとえば、パッケージに「(9)高濃度」と強調されている商品の方が「肌にいい成分がたっぷり入っていて、効果が期待できるだろう」と安易に考えるのは間違いだと柴さんは話す。
「基本的にどんなに有効な成分だとしても皮膚から浸透する量には限りがあります。つまり高濃度の商品を使ったからといって、含まれている成分がすべて肌に浸透するわけではありません。特殊な技術で浸透度を高めることもできますが、“高濃度”をうたっている商品がすべて浸透度を高めるために確認試験を行っているかどうかは不透明です。商品によって品質の差がかなり大きいと思っていいでしょう。
それどころか、高濃度になるほど肌に負担がかかり、かぶれやすくなるケースもあります」(柴さん)
「お肌がもっちりぷるぷるに」がキャッチコピーの(10)コラーゲンも過信は禁物。
「アミノ酸が多数つながっている構造のコラーゲンは、分子量が大きいため、肌の奥まで浸透させるには特殊な技術を用いないと難しいです。そうした技術が導入されていない場合、肌の表面の潤いを守る働きしか得られません」(海野さん)
「目に見える効果」に潜むウソ
毛穴の詰まりをきれいさっぱり落とすといわれる(11)ピーリング剤にも落とし穴がある。
「角栓がポロポロ取れる」という表現に惹かれて購入したことがある人もいるだろうが、そこにはウソが潜んでいると皮膚科・内科医の友利新さんは言う。
「ピーリング剤を使用したときにポロポロと取れるのは角栓ではなく、ゲル化剤といわれるものです。肌に悪いわけではないですが、かといって効果があるわけでもない。ただ“ポロポロ感”を演出するためのものにすぎません。さらに言うと、“こんなに角栓が取れるのか”と真に受けてピーリング剤を使いすぎることで、肌が薄くなり傷つきやすくなることもあるので注意が必要です」
“しわに特化”といううたい文句にも要注意。
「(12)ナイアシンアミドは、肌の保湿力や代謝活性など多彩な働きのある美容成分ですが、昨今は“しわにいい”ことのみ宣伝されている状況です。総合的に効果があるからしわにも期待ができますよという話であり、決してしわの改善に特化した美容成分ではないのです」(海野さん)
同じ成分でも商品で大きな違い
注意すべきはセンセーショナルなうたい文句だけではない。同じ成分名が表示されていたとしても、その効果は商品によって千差万別だと友利さんは指摘する。
「たとえば(13)ヒアルロン酸と書かれている商品の中には、分子量が小さく肌に浸透しやすい低分子ヒアルロン酸を用いているものもあれば、分子量が大きい高分子ヒアルロン酸を用いているものもある。効能も肌への訴求効果も両者には大きな差があり、ひとくくりにするのは大間違いです」
さらに留意しておくべきは保湿を目的とした美容成分の多くは、肌に浸透したところで角層で増えることがないということ。
「(14)プラセンタや(15)セラミド、(16)馬油、(17)ワセリンなどは、確かに保湿作用としてはいい働きをしてくれます。しかし肌や体内に吸収され、成分量を増やすことは不可能です。つまり極端なことを言えば、これらの美容成分は肌を守って保湿効果を高めるという意味では役割は同じ。どれを使っても得られる効果は大きく変わらないのです」(田中さん)
ジェネリックコスメの罠
デパートで販売されている高額な化粧品と同じ成分が入っているというプチプラコスメにも要注意。“ジェネリックコスメ”などという表現で、高額な商品と同じ美容成分が入っているとアピールされることもあるが、効果が同じとは限らないので気をつけたい。
肌質の改善から美白、アンチエイジングまであらゆる効果が期待できるとされる(18)ガラクトミセス培養液が代表的な例だ。
「ガラクトミセスと一口に言っても、酵母菌の中にはいろいろな種類があり、どんな方法で培養するかによっても効果の有無が変わってきます。ただ成分名を見て、“あの高級化粧水と同じだ!”と飛びついて購入しても、同じ効果が期待できるとは限りません」(友利さん)
そうした“期待外れ”の美容成分に対し、肌への吸収がいきすぎた結果、健康被害を及ぼす美容成分もある。
「その最たるものが成分を限りなく小さくし、肌への吸収をアピールポイントにしている(19)ナノ化粧品です。ナノ化粧品は確かに分子量が小さく、体にしっかり吸収されます。一見、効果が期待できる理想の化粧品のように思うかもしれませんが、体の奥まで吸収しすぎてしまうと健康を害する可能性もある。もし菌が付着していたとしたら、侵入を許すことになります」(田中さん)
うたい文句に気をつけるべき美容成分6
(美容成分名/理由)
ビタミンC/いくら「高濃度」とうたわれていても、肌に浸透する濃度には限りがある。
コラーゲン/肌の表面にとどまって潤いを守る効果はあるものの、肌に塗っても皮膚内に吸収されるとは限らない。コラーゲンを塗りさえすれば内側から「ぷるぷる」になるというのは大きな勘違い。
ピーリング剤/「角栓がポロポロ取れる」はウソ。角栓ではなくゲル化剤が「ポロポロ状」になっているだけ。
ナイアシンアミド/保湿力や肌の代謝力を上げる効果を持つ美容成分。「しわに特化」とうたわれることが多いが、しわの改善に特化した効果があるわけではない。 ヒアルロン酸/肌に浸透するかどうかは分子量の大小に左右される。
ガラクトミセス培養液/美白からアンチエイジングまであらゆる効果があるとされ、高額スキンケア用品に含まれているが、すべてのガラクトミセス培養液に効き目があるわけではない。培養方法によっては効果が期待できないものも。
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効果を最大限に引き出すためは正しい使い方を守ること
成分やうたい文句にまつわるウソや間違いを知ったら、効果を最大限に引き出すために正しい使い方も心得ておきたい。
「大前提として覚えておきたいのは、記載の使い方を守ること。たとえば欧米でニキビの炎症を抑える医薬成分となっている(20)アゼライン酸や、抗炎症効果や毛穴の開きを小さくする働きのある(21)グリシルグリシン酸は、併用するとニキビや毛穴対策の相乗効果が得られるでしょう。しかし医療成分であるため使い方を誤ると副作用が出る可能性もあります。特に目の周りなど皮膚が薄いようなところに、必要以上に塗るといった使い方をすると、肌トラブルにつながりかねません」(海野さん)
保管方法が効果を左右する場合もある。
「化粧水や美容液に含まれる(22)レチノールは非常に不安定な物質で酸化しやすく、本来ならばパッケージまで配慮が必要なデリケートな成分です。しかしそこまで配慮されていない場合がほとんど。酸化してしまえば効果がないどころか肌トラブルが起きかねません」(柴さん)
歯磨き粉、シャンプーにも含まれる要注意成分
気をつけるべきは肌に塗り込む成分だけではない。専門家の手を借りなくとも真っ白な歯が手に入ると人気の(23)セルフホワイトニング商品も数多く売られているが、使い方には気をつけたい。宇田川歯科医院で歯科医師を務める宇田川小百合さんが解説する。
「日本で市販品として売られている歯磨き粉は表面についている飲み物などの着色汚れであるステインを落とす効果しかなく、漂白はできません。歯の表面の着色やくすみを落とすものだと思ってください。海外で販売されている商品には漂白成分が含まれるものもありますが、海外の人に比べて日本人は歯のエナメル質が薄いため、知覚過敏の症状が強く出て、歯がしみることも。使うとしても短期間や、口腔環境がよいときに使うようにしましょう」
毎日使うシャンプーやコンディショナーも、成分をしっかり確認して購入しよう。
「特に注意してほしい成分がラウレス(24)ラウレス硫酸ナトリウム、(25)ラウリル硫酸ナトリウムなどです。これらの成分は商品の値段にかかわらず、多くのシャンプーやコンディショナーに含まれていますが、頭皮を傷めるリスクが高いのです」(柴さん)
ヘアケア商品には「(26)敏感肌用」「(27)アトピーでも使える」などと、データもないのに宣伝文句にしているものも多いと柴さんは続ける。
「そのため私は基本的に湯シャン(お湯だけで行うシャンプー)や純石けんシャンプーとクエン酸リンスをおすすめしています。もしシャンプーを使いたいならば、きちんと安全性の実証データを持っている商品を使うべきです。根拠のないうたい文句に騙されないように」
「安すぎるサプリメント」の蔓延
肌や髪の調子を整えるために、サプリメントで足りない成分を補おうと考えている人もいるだろう。しかし、その中にも罠が潜む。
「たとえばコラーゲンとのみ記載されているものは、分子量の大きさが不透明なため体内にどの程度吸収されるのかどうかがわかりません。コラーゲンペプチドと書いてあれば、分子量が小さく体内にしっかり吸収されるので、効果が期待できます」(友利さん)
田中さんが懸念するのは「安すぎるサプリメント」の蔓延だ。
「(28)プラセンタのサプリメントは、希少であるゆえに通常であれば2万円以上します。それなのに、世の中には700円程度で売られているものもある。サプリメントの規定は緩く、一滴でも成分が入っていたらその成分名を書くことができるのです。皆さんが手に取っているプラセンタに効き目があるかは定かではありません」(田中さん)
過剰摂取は禁物
効果が期待できるか不透明な商品がある一方、過剰摂取が健康被害につながる成分もある。
「(29)ビタミンA、(30)ビタミンD、(31)ビタミンEは過剰摂取により、皮膚の乾燥や脱毛などが起こります。特にビタミンDの摂りすぎは腎臓に大きな影響を与え、腎不全のリスクにもつながります」(田中さん)
(32)美容ドリンクや(33)栄養ドリンクののみすぎも、栄養の過剰摂取につながる。
「コラーゲンドリンクにはビタミンCやビタミンB群など、あらゆる成分が入っています。プロテインにもビタミンB群などが入っているものもあります。そこにサプリメントもプラスしていけば無意識のうちに過剰摂取になりかねません」(友利さん)
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パッケージや宣伝文句につられて受動的に商品を選ぶのではなく、それがどのように自分の体に入り、役目を果たすのか。それをしっかりと把握することが美への着実な近道となる。
※女性セブン2023年11月9日号