連載開始から今年で55周年を迎えた『ゴルゴ13』。生みの親であるさいとう・たかを氏の亡き後も徹底した分業制で作品を送り出し続けるさいとう・プロダクションの制作現場に密着した──。
2021年9月のさいとう氏の死去後も、『ゴルゴ13』の連載は続き、今年で55周年を迎えた。さいとう氏は初めて漫画制作に分業体制を導入。氏の亡き後はシナリオは脚本家に任せ、作画はチームで分業する「プロダクション・システム」が構築された。
脚本家は5~10人ほど。脚本のプロだけでなく、国内外の裏事情や専門知識に明るい軍事ライターや元外交官も加わる。テレビドラマ『VIVANT』(TBS系)では、国家防衛のために暗躍する組織“別班”が描かれたが、『ゴルゴ13』では40年以上前の作品「第154話 暗黒海流」ですでに別班が登場している。
「生前、さいとう先生は、脚本家の方に口出ししませんでした。指示を出すと、自分に迎合した脚本が出てくるからだとおっしゃっていた」と作画チーフのふじわら・よしひで氏は振り返る。過去作に似た脚本に用はない。さいとう氏は予想外でリアルな脚本を求めた。
制作の流れは、まず脚本家と編集担当が打ち合わせを重ねて脚本を仕上げ、脚本を受け取ったふじわら氏が40ページ分のネーム(大まかな設計図)を作成。9人の作画スタッフへメカ、背景、キャラなど得意分野ごとにページを割り振りペン入れを行なう。通常10日で1話分が完成する。
さいとう氏が存命の当時と比べて変わったのは、ゴルゴの顔の描き方と“音入れ”だ。
「必ず、先生自身がペン入れしていたゴルゴの顔は、過去作品からトレースして描きます。“ズキューン”といった効果音も、先生が本番一発勝負で手書きしていましたが、文字のトレースは難しいので、過去作品からスキャンしてPC上で重ねます」(同前)
チーフマネージャーの古賀憲氏は「さいとう先生は『ふじわら君は、ゴルゴのかっこ良さをわかっているから大丈夫』とおっしゃっていた」と話す。
優秀なチームが『ゴルゴ13』の世界観とさいとう氏の遺志を引き継いでいる。
取材・文/清水典之
※週刊ポスト2023年11月17・24日号