不安定な気温となっている今年の秋。そんなときは、部屋な中で落ち着いて、読書でもしてみては? おすすめの新刊を紹介する。
『うるさいこの音の全部』/高瀬隼子/文藝春秋/1760円
冒頭の女子達がめちゃ感じワリィ。中華屋さんで中国人家族の息子にエモいお愛想を振りまき、まんまと無銭飲食をするのだ。すぐ作中作とわかってホッとするが、これを書いているのはゲームセンターで働く長井朝陽。文学賞を受賞したのが職場にバレ、周囲の対応ががぜん賑やかになる。その困惑と遮音を描く表題作ほか、話を盛らずにはいられない作家の業を描くもう1編。
『ぎんなみ商店街の事件簿 Sister編』/井上真偽/小学館/1540円
両親が絶品焼鳥店を営む佐々美、都久音、桃の三姉妹。銀波坂の商店に運転を誤った車が突っ込み、運転手は死亡。この事件の裏の絵柄をあぶり出した三姉妹は名探偵という評判をとり、第二の事件、第三の事件が持ち込まれる。地元、商店街、昔から顔なじみの愛すべき人々。ミステリーに“日常の謎”というジャンルがあるように、“我が町(Our Town)もの”と命名したい。
『親密な手紙』/大江健三郎/岩波新書/968円
各話は短いのにしみじみと読んでしまう。後の義兄伊丹十三との思い出も。彼の薦めで東大を受験し仏文学者の渡辺一夫に師事したのに、当人にその気はなかった、と。親密な手紙とは書物のこと。深く影響された詩人や作家、E・サイードや武満徹との友情、平和、反原発、成城での暮らしや子息の作曲家光さんのことなどが語られる。冬の晴れた日の晴朗な空気のような随想録。
『処女の道程』/酒井順子/新潮文庫/693円
時代で価値が上下する「処女」から眺める日本史。超面白い。性におおらかだった平安、貞操観念が強調された封建社会。明治〜大正では純潔がもてはやされ、その名残りは敗戦後も。そして1980年代から2000年代まで続いた「日本のセックス祭り」。性体験がないと恥ずかしい層がこれを支えた。が、現代では恥ずかしくない派が70%。生きやすい時代になりました(←個人的感想)。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年11月23日号