「この世はな、義理と人情でできてんねん」──10月2日にスタートしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で趣里(33才)演じるヒロイン・鈴子に負けじと視聴者の心を掴んでいるのは、「芸は身を助けるし、人生楽しなる!」をモットーに映画と芝居が大好きな夫とふたり、銭湯を切り盛りしながら娘の夢を後押しする“肝っ玉母ちゃん”ツヤを演じる水川あさみ(40才)だ。コラムニストの吉田潮さんはこう期待を込める。
「素早いツッコミとチャキチャキした関西弁の姉御肌キャラの“おかん”は水川さんにぴったり。趣里さんと7才差なのにしっかり親子に見えています。しかも10月27日に放送された第20話で、鈴子と血がつながっていないことが明らかになったから、今後ツヤの存在はかなり大きくなるはず。この作品は水川さんにとって代表作になるでしょう」
『ブギウギ』に限らず「朝ドラにおける母親の役割はとても重要」と語るのは、『花子とアン』(2014年)で、ヒロイン役の吉高由里子(35才)の母親を演じた室井滋だ。
「ヒロインがまだ子供の時代から登場する母親は、いわば朝ドラのスタートラインを切る役割を担う存在。半年間にわたって放送するんだから、序盤で視聴者に興味を失われたら困るじゃないですか。その重責がやる気にもつながりました。
撮影現場では本当のおかんみたいな気持ちで吉高さんをいつも目で追っていました。一度吉高さんが着物を着替えるときに湿疹が出てしまったことがあったのですが、マネジャーさんでもほかのスタッフでもなく、とっさに『おかあ』と呼ばれたときはうれしかった半面、“私がなんとかしなきゃ”と本気でオロオロしたことを覚えています」
その作品の明暗を握る“陰の主役”ともいうべき朝ドラの母親たち。史上最高の名母親は一体誰なのか、13人の朝ドラ好きと本気で考えてみた。
【選出方法】
以下、13名に「最高の朝ドラ母親役」を5〜10個あげてもらい、1位から順に10点、9点、8点、7点、6点、5点、4点、3点、2点、1点として計算した。
泉麻人さん(コラムニスト)、今井舞さん(コラムニスト)、カトリーヌあやこさん(コラムニスト)、木俣冬さん(『みんなの朝ドラ』著者)、田幸和歌子さん(『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』著者)、西森路代さん(コラムニスト)、桧山珠美さん(コラムニスト)、ペリー荻野さん(コラムニスト)、堀井憲一郎さん(コラムニスト)、室井滋(女優)、矢部万紀子さん(コラムニスト)、吉田潮さん(コラムニスト)、渡辺裕子さん(コラムニスト)
厳しい言葉に込めた優しさ
歴代109作品の中で圧倒的1位に輝いたのは『あまちゃん』(2013年)の小泉今日子(57才)が演じた春子。「じぇじぇじぇ」が流行語大賞に選ばれるなど作品そのものに大きな注目が集まったのはもちろん、自分と同じようにアイドルを志す娘にかける春子のせりふの数々が、視聴者に強烈な印象を残した。
「忘れられないのは、娘のことを“地味で暗くて向上心も協調性も個性も華もないパッとしない子”と言い放つシーン。リズムがあって批評性があってユーモアがあって、小泉さんの魅力そのもの。放送初回のサングラスに真っ赤なロングスカート姿にも目が釘付けになりました」(コラムニスト・矢部万紀子さん)
上京する娘に贈る言葉が粋だったと話すのはコラムニストの渡辺裕子さん。
「娘の背中を押しながら、叶わなかった自分の夢を昇華していく春子に心揺さぶられました。特に“あんたじゃなくてみんなが変わったんだよ! 自信もちなさい!”と周りのみんなを変えられる娘のアイドルとしての素質を断言する一言は、ちゃんと娘のことを見てきたお母さんらしいせりふでした」
2位にランクインしたのは平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%と大ブームとなった『おしん』(1983年)の泉ピン子(76才)。票を投じた人の多くが名シーンに選んだのは、ピン子演じるふじが口減らしのため極寒の川につかる場面。撮影は2月の山形県で行われ、ピン子は6時間も川につかったというまさに命懸けのシーンだ。
「お腹の子供を中絶するために川につかるというとんでもなく悲しい一幕。この時代を生きる女性のつらさをピン子さんが迫真の演技で体現していた」(コラムニスト・西森路代さん)
コラムニストのペリー荻野さんも、ふじの持つ“強い信念”に一票を投じた。
「ふじの出稼ぎ先に、さみしさに耐えられなくなったおしんがひとり歩いて訪ねてきたとき。2人は一晩だけ一緒に過ごしますが、そのとき母は“ひとりで生きていかなきゃだめだ”と話し、おしんをもう一度奉公先に返す。現実の厳しさを娘に伝える母の覚悟と強さがにじみ出ていました」