2018(平成30)年10月、中央区築地にあった市場が江東区豊洲へと移転したことで閉鎖された「旧築地市場(通称・場内市場)」。追い打ちをかけるように、2019(令和元)年末から新型コロナウイルス感染症が流行したことで、築地の人通りはまばらになり、一時期は途絶えたことも。「もう築地の活気は戻らないのではないか」──そんなことがまことしやかに囁かれた……。
ところがいま、場内市場跡の隣にある「場外市場」には、世界各国から観光客が押し寄せている。かつて“東京の台所”と称された場所はいま、“美食の街”としてさらなる活況を見せているのだ。そんな“令和の築地”で輝く、真の名店を紹介する。
そもそも築地とは、どんな場所だったのか。
「築地にあった“市場”とは、公設の中央卸売市場のこと。1935(昭和10)年に開場し、水産物のほか、青果、鳥卵、漬けもの、各種加工品などが取引されていました」
とは、築地市場の歴史に詳しい銀鱗会事務局長・福地享子さんだ(「」内、以下同)。東京ドーム5個分の敷地を誇る市場には1万人以上が働いており、取引額や水産物の取扱量は日本最大だった。
「公設の中央卸売市場ができる前の市場は民営。規模が小さく、衛生面などで問題がありました。また取引に関する規制もなく、揉め事が頻発。このような事態を解決するため、1923(大正12)年3月に『中央卸売市場法』ができ、全国に公設の中央卸売市場が作られたのです」
そんな折の同年9月、関東大震災が起こる。
「東京の水産物はそれまで、ほとんどが日本橋魚河岸で取引されてきましたが、震災で焼失。そのため、新たな法にのっとった “築地市場”ができ、日本橋の魚河岸(水産物)に加え、京橋の大根河岸の機能(青果)も移されたのです」
築地市場は、通称“場内”と呼ばれ、その外に隣接する“場外”には、場内の機能を補うための小売店や飲食店などが軒を連ねるようになった。
「“場内”が豊洲へ移転した際、多くの仲卸業者【※】も引っ越しましたが、“場外”に中央区が建てた商業施設『築地魚河岸』に店舗を構えた業者もいます。“場外”は、この商業施設も含め、料理人が通う店が多く、寿司ネタ用の玉子焼き店や、わさびなどのつまものを扱う店など、個性的な専門店が多いのが特徴です」
【※仲卸業者とは、市場内で卸売業者から商品を買い受け、小売業者や飲食店などに小分けして販売する業者を指す。東京都の市場で仲卸業者になるには、都知事の許可が必要】
約400×約150mのエリアに、鮮魚、青果、精肉、乾物、飲食店など、約460店がひしめく“場外”。どこに行くべきか、築地食べ歩き人・つきじろうさんに聞いた。
●鮭の店 昭和食品
「うちは天然鮭一筋の専門店。北海道産の時鮭、秋鮭をはじめ超辛口紅鮭や村上塩引などの希少品も扱っています」とは、3代目社長の佐藤友美子さん。
「ここで食べてほしいのは、築地で働く人にも人気のおにぎり。鮭の真の持ち味を思い出させてくれます」(つきじろうさん)
住所:東京都中央区築地4-13-14
営業時間:6〜14時
定休日:日曜・祝日・休市日(水曜)
●つきじ芳野 吉弥
日本橋魚河岸時代から、100年以上続く仲卸業者が営む穴子の名店。肉厚穴子のかば焼きをのせたお重はもちろん、穴子の白焼き、『こぼれて升』などの人気が高い。
「穴子に合わせて調理法を変えるというこだわりぶり。持ち帰り用の弁当も多彩で、私は銀だらの西京焼きが入った『穴子幕の内弁当』(950円)が好物」(つきじろうさん)
住所:東京都中央区築地6-21-5
営業時間:10時30分〜14時 ※夜は予約のみ
定休日:水曜・第一木曜
●諏訪商店
5代続く佃煮専門店。店頭には約15種類の佃煮が並び、100gから量り売りしてくれる。看板女将・牧野美千子さんのおすすめは、『3種のビューティーセット』(1000円)。
「カルシウム豊富な小魚や食物繊維が多い昆布、タウリンを含むあさりなどを使用しており美容にもいいんです」(牧野さん)
住所:東京都中央区築地4-10-8
営業時間:7〜14時30分
定休日:日曜・祝日・休市日(水曜)