『80歳の壁』など数々のベストセラーを生み出す和田秀樹医師が、「58歳から元気になる方法」をテーマに、現役世代の悩みに答える。定年後の生活が視野に入ってくる50代後半は、長年連れ添った妻との先行きに不安を抱く人も多い。「老後は夫婦2人きり」という将来を前に抱きがちな男性側の悩みに、和田医師が答える。
* * *
年々元気になる妻について行けない
50代から60代を迎えると、人は誰しも心身の老化による衰えを意識せざるを得なくなります。しかし、そのスピードや程度は個人差があるだけでなく、男女の違いが際立ってきます。奥さんが元気に出かけたがるのに、夫の側が「ついていけない」とボヤく意見を耳にすることもしばしばです。
しかし、実はこれは医学的には当たり前のことなのです。順を追って説明します。
まず、人間の一生には、男女ともに性ホルモンの分泌が活発になって子供から大人の身体になる10代の「思春期」と、性ホルモンの分泌が減り大人から高齢者へと変わっていく40〜60代の「更年期」の2つの大きな変化の時期があります。
私は特に後者を「思秋期」と呼び、その過ごし方が人生にとって一番大事だと考えています。70代、80代の残りの人生が輝くのか、それともその逆になるのかは、「人生そのものの質」さえ左右するほどです。
そもそも、男女ともに思秋期を迎えると、「何かをやろう」という自発性や意欲が低下し、感情のコントロールがしにくくなるなどの「感情の老化」が始まります。これは知力や体力の衰えよりも先に始まって、しかも気付きにくいのが特徴です。
なぜ感情の老化が起こるのか。それは、思考、意欲、感情、性格、理性などを司り、いわゆる「人らしい感情や行動」を生み出す脳の前頭葉が加齢により萎縮するためだと考えられます。私は高齢者専門の精神科医として、これまで脳の画像を数千枚は見てきました。そのなかで、認知症ではない健康な人でも、歳を取れば誰もが前頭葉から先に萎縮し始めることを確かめています。