「手元に置いて1話1話丁寧に読みたい」「しばらく余韻に浸っていたい」──絶賛の声が相次ぐ『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』(集英社インターナショナル)を上梓した世界的ベストセラー小説『あん』で知られる作家・ドリアン助川さんに、なぜいま「動物哲学」を世に出そうと考えたのかを語ってもらった。
《アリクイ「だれかと仲よくなることは、だれかと敵対することでもあります。それはとてもいやなことです。本当に生き物が進化するなら、そのいやなことを避ける命の在り方に辿り着けるはずなのに」
ネズミ「というと、わしらは進化しとらんということか?」
アリクイ「頭がよくても、殺し合いをやめられない生き物もいます。僕たち生き物には、進化ではなくて、変化があるだけなのかもしれませんよ」
──第15話『ペロリン君の進化』より》
首都圏の書店では発売と同時に週間総合1位を獲得(東京・有隣堂アトレ恵比寿店、10月22〜28日)した同書は、市場が限られる故に「日に数冊売れることが稀」といわれる哲学書の中でも異例の売れゆきを誇っている。
構想にはなんと50年を費やしたというが、なぜこの時代に「動物哲学」を書こうと思い立ったのか。
「ぼくは子供の頃から本当に動物が大好きで。動物を飼育する仕事や国内外の生き物を撮影する動物カメラマンの仕事にも憧れがありましたし、大人になったら動物の物語を書いてみたいとずっと思っていたんです。
それがその後20、30、40…と年を重ねていくと、モテたいとか売れたいとか、いろいろな欲がまとわりついて、いつの間にかそういう道はなくなってしまった。というより、すでに世界中に数えきれないほど動物の物語があるなか、喜んでもらえそうな物語を書き上げる自信がありませんでした。
だけどさらに年齢を重ねていくと、そんな邪念からも解き放たれていくわけです。そうして残ったのがぼくにとって本当に大事なもの、動物と哲学でした。そんなわけで、構想は50年というわけです(笑い)」(ドリアンさん・以下同)
哲学との出会いもまた、半世紀近く前の思春期だった。
「昔からぼくは集団生活や受験に向かってまっしぐら、みたいな“マジョリティーの動き”にことごとくついていけなくて。たとえば当時野球といえば阪神タイガースか読売ジャイアンツ、とクラスが二分されるわけです。だけどぼくはその意味がわからない。ほかにも球団があるじゃないか、と。だからひとり、阪急ブレーブスを見に行っていました(笑い)。
でもそんな変わり者だったぼくが、高校の倫理社会の授業で哲学と出合えたことで、やっと自分の居場所を見つけられた感じがしたんです。哲学者のものの考え方はもちろん面白いんですが、哲学者の孤立した生き方にも強く惹かれたんですね」