【書評】『笠置シヅ子ブギウギ伝説 ウキウキワクワク生きる』/佐藤利明・著/興陽館/1540円
【評者】川本三郎(評論家)
佐藤利明氏は数ある映画評論家のなかでも、もっともユニークなわが道を行く存在。「娯楽映画研究家」を肩書きにシネフィルの評論家がたてまつるゴダールや小津安二郎などには見向きもせずに、娯楽映画ひと筋に精力を傾けている。「男はつらいよ」、クレイジーキャッツ、あるいはエノケン(榎本健一)、ロッパ(古川緑波)ら喜劇と喜劇人を愛してやまない。そして本書はNHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロイン笠置シヅ子を熱く語る。
氏は音楽CDのプロデューサーとしても活躍しているが、CDで『ブギウギ伝説 笠置シヅ子の世界』をプロデュースしている。年季が入っている。笠置シヅ子は大阪育ち。あのバイタリティあふれる歌と踊りは大阪の活力と無縁ではないだろう。それまで音楽といえば歌詞とメロディだった時代に、身体全体で歌うリズムの力を押し出した。
はじめ宝塚歌劇団を志望したが背が低かったため不合格。何くそと宝塚のライバルとして創設された松竹楽劇部に入団。それも連日のように楽屋に押しかけ、根負けした楽劇部が入団を許した。エネルギッシュな笠置シヅ子らしい。
昭和十年代に、作曲家の服部良一とのコンビで新時代のミュージカル・スター、大阪が生んだ最高のジャズ・シンガーとして人気者になってゆく。昭和の戦前の日本にもジャズの時代があった! しかし、太平洋戦争が始まるとジャズは敵性音楽とされ、活動はせばめられてしまう。戦争とジャズは合わない。
戦争が終わる。それまでの鬱憤を晴らすように、抑えられていた情熱が弾ける。それが空前のブームを呼んだブギウギ。歌の力と戦後の再生のエネルギーがみごとに重なり合った。
佐藤氏は一九六三年生まれ。当然、戦前や終戦後の笠置シヅ子の生のステージは見ていない。そのぶんレコード、映画、そして数々の資料に当たり、笠置シヅ子の熱気をよみがえらせている。
※週刊ポスト2023年12月8日号