仕事納めに向かい、忙しくなる12月に突入した。多忙な日々の中でもリフレッシュは必要だ。心の糧になるであろう、おすすめの新刊を紹介する。
『家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊』/磯田道史/PHP新書/990円
前半は、家康が作った平和な世の仕組みと、265年の間にそれがいかに虫食い状態になったか。後半では幕府の必然的崩壊と、薩長土肥の作った明治新政府の真の姿をあぶりだす(要は権力闘争です)。最終章の現代に受け継がれた思想=日本&日本人論が著者の面目躍如。今も跋扈する忠誠心競争、人材登用が学歴主義に堕した経緯など、今の日本の根っこを考えるヒント多々。
『Q』/呉勝浩/小学館/2420円
著者の疾走する筆に身を委ねるしかない展開に眩暈を起こす。富豪の父親に放置されて育った各人連れ子の三きょうだい(女・女・男)。ダンスに天賦の才を持つ末弟(Q)を熱愛する姉妹とQに群がるショービズ関係の人々が蠢く群像小説だ。完全犯罪、容赦ない暴力、支配と隷属、救世主願望など、現代の欲望が殺害予告とともにQの移動ゲリラライブになだれ込むシーンが圧巻。
『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』/中野信子/サンマーク出版/1650円
運のいい人はどんな思考回路や行動原理を持っているのか。それらを科学的に解説。「自分を大切に扱う」(なかなかできません)、「面白そうかどうかで決める」(バッチリ)、「他人の欠点には寛容」(ムリ…)、「長所を正しく褒め」(鋭意努力中)、「利他行動をとる」(憧れ)と、ガックリきたり希望を持ったり。著者が脳の報酬系を利用してフランス語を習得した時の体験談などはさすが。
『炉辺の風おと』/梨木香歩/毎日文庫/825円
自分と、自分の五感が喜ぶ容れ物(住まい)の話だ。八ヶ岳に購った山荘、一目惚れしすぎて絡め取られる懸念から購入を断念した東京の一軒家、鹿児島の実家に近い霧島の山荘(山荘二軒持ち?)。その間に、父の看取りや国内旅、英国滞在記などの話が挿入される。幸福とは他者の眼にどう映るかではなく、自分が自分らしい思考でどう充たされているか。そんな視点に開眼する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年12月14日号