作家の伊集院静氏が肝内胆管がんのため73歳で亡くなった。“人を愛し、人に愛された稀代の粋人”ゆえ、惜しむ声はあまりに多い。麻雀を通して親交を深めた漫画家の黒鉄ヒロシ氏(78)が悼む。
「思い出せばいろんな景色が浮かぶけれど、伊集院のプレゼントのセンスは群を抜いていた。値段で選ぶのではなくて、ダンディズムがあった。
僕の個展に花を出してくれたとき、伊集院が選んだのは『竹』なんですよ。竹を組んだものに花が活けてあって、竹の花を気取っているんだよね。竹は100年に一度しか花が咲かないと言われているから、『それぐらい珍しい個展の開催をおめでとう』という気持ちがこもっているんですよね。
必ずちょっと期待を超えて裏切る、ちょっとずれるところに彼の色気がある。洋服でも、完璧に整えるのよりも、さりげなく着崩す。彼の歌詞にもあるじゃない、『ギンギラギンにさりげなく』ってね」
黒鉄氏は、“最後の無頼派”と謳われた伊集院文学の本質をこう説く。
「人はなんのために生きているかというと、人を励ますために生きていると思うんです。出世も好きな人との結婚も、そこに本当の価値はない。伊集院はそれが分かっていて、だからこそそんな不条理な世の中でも、ある角度ではきらっと光ったように見えるわずかなものを文学に紡いでいたのでしょう。
今日は生きていて嬉しかった、良かったという気持ちになることを相手にはしてあげるけれど、人からは要求しない。自分一人は寂しかろうがどうでもいい──それが遠くから見たら“無頼”に見えたのでしょうが、近くで飲んで話せばとても細やかな男でした」
遺された作品はこれからも読み継がれていく。
※週刊ポスト2023年12月15日号