深夜の約6時間、365日、生放送で全国に発信する『ラジオ深夜便』(NHK)。「眠くなったらどうぞおやすみください」のコンセプトのもと、アンカー(番組の進行役)を務めるOB・OGのアナウンサーが、ゆっくりとした口調で話す。リスナー数200万人ともいわれ、放送開始から33年を経たいまでもなお、眠れぬ中高年の心を癒し続けている。そんな『ラジオ深夜便』の魅力に迫る。【前後編の後編。前編から読む】
アンカーとリスナーをつなぐのは“声”のみ。映像のように姿が見えないぶん、記憶に刻まれることも多い。ディレクターの山田亜樹さんは語る。
「番組に出演されたとある大学の先生が講演先のホテルで雑談をしていたら、『○○先生ですか? “深夜便”で聴いた話し方で、すぐにわかりました』と声をかけられ驚いたそうです。全国放送ですから、予想以上に反響が大きいのだと思います」
リスナーとのコミュニケーションツールとして、ラジオにはお便りがつきものだが、深夜便では一部のコーナーを除き、公式には受け付けていないという。チーフプロデューサーの阪本篤志さんが説明する。
「理由は、リスナーのかたがたに心地よく寝ていただきたいからです。お便りを募集すると『読まれるかもしれない』と期待して、ずっと聴いてしまう恐れがあります。
それでも、ありがたいことに、自発的に感想やご意見をくださるかたがたが本当に多いです」(阪本さん)
お便りがきっかけで生まれたコーナーもある。第2・4木曜を担当する村上里和アンカー(57才)が明かす。
「それは、『拝啓お元気ですか』というコーナーです。あるとき、『子供と絶縁状態になってしまった』という悲しいお便りを紹介したところ、『実は私も』と、同じような境遇のかたがたから驚くほど多くのお便りをいただき、それに対する慰めや励ましもたくさん寄せられました。
『誰もが自分の人生を語りたいのかも』と感じ、自分の中に秘めた思いを“あの人”に宛てて手紙に綴るコーナーを立ち上げたんです。募集のたびに平均500通ほどのお便りをいただき、反響の大きさに驚いています。
また、100才のかたから『いまだから伝えたい』と戦争体験をいただいたときは胸に迫るものがありました」(村上さん)
“リスナーが番組を作る”ことはよくあるが、深夜便ほどそれを感じたことはないと、阪本さんは言う。
「決して参加型の番組ではないのに、“自分の番組だ”と感じてアドバイスや情報をくださり、深夜便が生活の一部となっているかたが多いと実感しています」
年に数回、アンカーが各地を回って交流するイベント「深夜便のつどい」が開催されているのも、一役買っているのかもしれない。