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楽天・安樂智大は「いい子すぎる」「親の躾がよかった」 済美・上甲監督が口にした評価とその後の10年での変貌の理由

楽天から1位指名を受けた直後の安樂。恩師の上甲監督の遺影を持参していた(撮影 藤岡雅樹)

楽天から1位指名を受けた直後の安樂。恩師の上甲監督の遺影を持参していた(撮影 藤岡雅樹)

 複数の選手がマスコミを通じてパワハラ被害を訴え、チームを自由契約になった東北楽天・安樂智大(27)。若手選手に逆立ちさせて下着を脱がせるなどの行為が球団から「ほぼ事実」と認定された。しかし、10年前、全国に名を馳せたばかりの16歳の安樂少年は誰からも愛される存在だった。その後、何が安樂を変えたのか。

 * * *
 口が達者な高校生だな──。

 それがパワハラ騒動を起こし、東北楽天を自由契約となった安樂智大に対する愛媛・済美高校時代の第一印象だった。時は2013年3月、センバツの初戦・広陵戦に勝利した翌日だったと記憶している。2年生ながら、エース番号を背負った安樂は広陵戦で延長13回を3失点完投し、2年生としては甲子園最速となる152キロを記録。その後、済美は決勝まで勝ち進むのだが、まだ初戦が終わったばかりのタイミングで安樂の周りに喧騒はなく、単独のインタビューも容易だった。

「試合に出られない先輩の分も背負ってマウンドに上がっています。個人としては、高校3年間で160キロを出したいです。あと3回の甲子園のチャンスを全部ものにして、上甲(正典)監督を胴上げしたいです」

 前年夏の岩手大会で160キロをマークした花巻東時代の大谷翔平のように、自分も160キロを出して、全国制覇を遂げたい──。そんな大言を放ちながら、先輩を立て、下級生ながらエースナンバーを背負う責任を言葉にし、上甲監督への感謝を口にした。そして大阪桐蔭など全国の強豪から誘いがある中で「地元の学校で甲子園を目指したかった」と済美を進学先に選んだ理由を話した。ハキハキと饒舌に語る様はまるでNHKが主催する「青年の主張コンクール」の弁論でも聞いているようだった。

 翌2014年9月2日に死去した上甲監督はその日、最後の愛弟子をこう評していた。

「いい子過ぎる。自分で物事を考えられるのと、マウンドで冷静に起きていることを判断できるのはすごいこと。先輩の気持ちを思いやりながら自分を主張する。親の躾が良かったんでしょう」

 30年を超える監督生活のなかで、上甲監督は平井正史(元オリックスほか)や福井優也(元広島ほか)など、プロ野球界に教え子を送り出してきた。

「安樂は上半身の筋力はないけれど、下半身の筋力はすごい。だからといって今後、トレーニングによって、上半身に筋肉をつけると、彼の持つヒジや肩の柔らかさを失ってしまう。私なりの育て方のマニュアルが通用しない子ですね。いろいろな方に相談しながら育てています」

 当時の田坂僚馬コーチ(現・済美高校監督)も、「高校2年生にしては大人びている」と話していた。

「普通の高校生ならば指導者に意見をなかなか言いづらい。だけど安樂は『ちょっと身体が重いんですが、どんなアップをしたらいいでしょうか』と、監督さんやコーチに意見を求めてくる。野球に関しては、信頼の置ける子です」

 また、この日は安樂の母も練習場に駆けつけていた。「自然とのびのびと」をモットーにして育ててきた次男をこう案じていた。

「ホントに野球ばかりで、三度の食事よりもキャッチボールが好きな子でした。注目していただけるのはありがたいですが、既に愛媛では街中を歩いていても、知らない方から指をさされてしまう状況で、逃げ隠れしなきゃいけないのは大変かなと思っています」

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