放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、ゴジラについて綴る。
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しみじみ思う。「桜と富士山とゴジラが好きなのを日本人という」。なかなか奥深い金言だが、今回私がふとつぶやいた言葉である。文字通り破壊的な面白さをみせた『ゴジラ-1.0』。
初めてゴジラを目撃したのは1954年の第1作。私が6歳の時である。あれから一体何十本というゴジラ映画が作られたのか。若き日はゴジラ博士(と、までは言われていない)と呼ばれ、ほとんどのゴジラを見て来たつもりだが、今作は大傑作だった1本目を超えそうな名作に仕上がった。何しろゴジラが現われるのが第1作より前、終戦前後というのが深く考えさせる。ゴジラに負けない神技といえる神木隆之介の名演。特攻隊の生き残りである。終戦を迎えられない神木の心情、そこへゴジラが。日本を守るとは、子供達に未来を。第1作のラスト、ゴジラが死滅したかに思えた時、志村喬の山根博士がつぶやく。「あのゴジラが最後の1匹とは思えない」。ゴジラは不滅であるという製作陣の思いがここにある。
誕生から70年、最新作までその遺伝子は残り、あの分ではまだまだ未来へとつながっていきそうだ。怖いんだけど好き、それがゴジラだ。
この名前だって元々はゴリラとクジラの合成語だから。なつかしく想い出してもみて下さい。「アンギラス」1955年、ゴジラと最初に戦った怪獣ですよ。「キングギドラ」1964年の地球最大の決戦に登場しました。「ラドン」1956年。ゴジラの次に主役をつとめた本数が多い。「ミニラ」ゴジラの息子。いつもいじめにあっていた。「メカゴジラ」1974年。出現時はゴジラの姿を偽装していた。「モスラ」1961年、インファント島に棲息する怪獣。この島にいる双子の妖精はザ・ピーナッツ。“モスラ~やモスラ~”と思わず歌ったのは60歳以上でしょう。
それにしても今作、なぜか魂をゆさぶられラスト近くには柄にもなく少し泣けてきた。ゴジラも神木も壊されてゆく銀座の街並もすべてみごとだった。私にとってこの映画は「ゴジラ+10.0」だ。
当誌でもおなじみ、春日太一がひょっとしたらゴジラよりも強敵と思える戦後最大の脚本家橋本忍に挑んでいったとんでもない決定版(480ページもある)『鬼の筆』を上梓した。100歳まで生きた巨人である。『羅生門』『生きる』『七人の侍』『私は貝になりたい』『切腹』『張込み』『砂の器』『八甲田山』『八つ墓村』、まだまだたくさんの脚本があってほとんどがベスト1。12年もかけて書いた春日もまた鬼の筆である。
※週刊ポスト2023年12月15日号