【書評】『ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景』/岩村暢子・著/中央公論新社/1870円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)
ホームドラマでは食卓のシーンが見せどころだが、現実の家庭の食卓風景は、他人にはなかなか覗くことができないだけあって衝撃的だった。誰しも「自分」の食卓が基準で、それが普通と思っているからだ。時代とともに家族の姿はどう変容してきたか。本書は、「日常の食卓」に焦点を当て、89家庭の10年後、20年後を定点観測した記録である。
忙しい現代、レトルト食品やコンビニで好きな時間に好きなものを好きな時にバラバラにとる「孤食」は普通になった。だが、調査の当初から、「子どもの自由や好みの尊重」をうたって「子どもの勝手」に食事をさせてきた家が多かった。
「その親たちには子どもが幼い頃から、まるで突き放すような子どもへの奇妙な『一人前扱い』『大人扱い』」をしていたという。やがて子どもが思春期にはいると、「気の合う子」を「気の合わない子」より「ひいき」し、摩擦を回避するようになる。この「危うい関係」がデータとして浮上したのは2000年代半ばからだ。「友達親子」がもてはやされた80年代を過ごした子どもが、親となった時期と奇妙に重なるという。
個の尊重、といえば聞こえはいいが、「友達親子」は母親としてすべきことに「無関心・無干渉」ということでもある。無関心は親子間だけに止まっていない。食卓から存在を消され、自室のベッドのうえでコンビニ飯を食べる「独りベッド飯の夫」や、厄介ものになった「同居老人」は「家族団欒の輪」から外され「孤食」を強いられている。
20年という調査期間は、子どもが成長して独立する歳月でもある。最終章「その後の明暗」は、ぜひ読まれたい。本書の記録がすべて当てはまる人はいないだろう。しかしどれひとつとして当てはまらない人もいないはずだ。食卓に長く女性をしばりつけてきた男性優位社会のほころびが、露呈したものでもあるからだ。
※週刊ポスト2023年12月22日号