自由であることは尊いと誰もが考えているだろうが、それは社会が円滑に営まれてこそ成立するものだろう。服装や髪型、タトゥーのありなしなどの自由が認められる時代なのだからと、その店や会社、コミュニティの運営を壊してまでその「自由」は導入されるべきものなのだろうか。ライターの宮添優氏が、責任を負わずに自由に振る舞う一部の人たちのために起きている混乱についてレポートする。
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近年、従業員の髪型や髪色、ネイルなどを「自由」にする企業や商店の取り組みが注目されている。中には、従業員のタトゥーを許している場合もあり、外見にとらわれない考え方をいち早く取り入れようという姿勢は、大手メディアも手放しで称賛する傾向にある。
タトゥー解禁でコミュニケーションがとりやすくなった
東京・渋谷にある若者向けアパレル店店長・清水晴太さん(仮名・30代)は、運営会社の意向により、数年前から自身の「タトゥー」を隠すことをやめたが、客からの反応は良好だという。
「扱っているアイテムは海外アーティストにちなんだものが多く、元々タトゥーのお客さんは多かったんですが、親会社の意向で従業員の格好は厳しく制限されていました。その制限も、この数年で段階的になくなり、私も自分のタトゥーを解禁したんです。タトゥーがきっかけで話が弾んだり、怖そうだけど接客は丁寧だとギャップに魅力を感じてくれたり、以前よりお客さんとのコミュニケーションは取りやすくなったと思います」(清水さん)
自分らしい自由な格好で接客ができるようになり、従業員も自信に満ちた接客ができていると喜ぶ清水さんだが、一方でこうした見た目の「自由」は、時と場合を選ぶものであることは自覚しているという。
「行きつけの居酒屋も、従業員のヘアスタイルやネイルを自由にしていますけど、結局、それが衛生的であれば誰も文句は言わないんです。でも、いくら自由にして良いと言っても、不潔そうであれば客は不愉快だし、店も許すべきではない。実際、従業員が料理を持ってくるときに、ネイルが食器に触れたりするのを見ると、食べる気は失せますよね。件の居酒屋は後者で、特に文句やクレームを入れたわけではないのですが、私も次第に行かなくなっちゃいました」(清水さん)
千葉県内にある老舗の人気飲食店で働くパート従業員・佐田幸子さん(仮名・50代)も、働く人たちに「自由」が取り入れられた結果、客離れが進んだと嘆く。
「若いアルバイトさんの定着率が低く“服装や髪型、ネイルも自由”にして、気持ちよく働いてほしいと、店長が方針を変えたんです。ところが、新規客は増えたものの、常連さんが来なくなりました。ある常連さんは、見た目が自由なのはいいけど衛生的ではなくなった、と仰いました。今更従業員の格好を元に戻しても、おそらく帰っては来られないでしょう。長年築き上げてきた信用がなくなったと、店長は頭を抱えています」(佐田さん)