寒い冬には、暖かい部屋の中で読書をするのがイチバン! この冬におすすめの新刊4冊を紹介する。
『月ぞ流るる』澤田瞳子/文藝春秋/2200円
夫亡き後、少年僧・頼賢の学問の師となる赤染衛門(朝児)。養母毒殺の真相を探る頼賢を助けて中宮・妍子(藤原道長の次女)に出仕するが、妍子は父を嫌って自分を疎む三条天皇の仕打ちに泣いていた。朝児は思う。正史に残らない悲哀を掬い「史書にして史書にあらず、物語にして物語にあらざる」ものを書こうと。華麗な平安絵巻と同時に著者が朝児に託した物語観も力強い。
『月さんとザザさん』角野栄子作・絵/小学館/1430円
森の中の一軒家で毎日不機嫌に過ごすザザばあさん。たまには笑ったらどうなのよと家はプンプン。この家には名前がありましてスミコさん。スミコさんは家出を決意するが、ザザさんは足をちょん切ってやると追いかけてくる。そこにまん丸に肥えたお月様。時々窓辺に来て面白い話をしてくれると言う。カエル祭り、夜空に散らばるオムレツなど絵も楽しいシュールな大人の童話。
『うれしい近況』岡野大嗣/太田出版/2200円
少し波打つチェック柄の表紙。チェックのシャツって着て数時間経つとこんな感じになりますね。クレープ、UFOキャッチャー、IKEAなど24時間どこかで誰かが発している言葉が短歌になる。好きな音楽やコンサートの高揚感も。「ああ好きでよかったなっていうライブ 今から帰路が待ち遠しいよ」。見出しに取った歌は糖度100%。体が沈むようなあの甘い微睡みを思い出す。
『橙書店にて』田尻久子/ちくま文庫/902円
有名無名の人々が人生のカケラを落としていく映画の"ホテルもの"。本書を読みながら喫茶店や書店もそうだなあと思う。ホテルものと違い、熊本の橙書店の店主である著者の人生も織り地の一部だ。故石牟礼道子さん、故渡辺京二さん、伊藤比呂美さん、吉本由美さん+村上春樹さん+都築響一さんで開く朗読会。みんな本好き店主好き。月光みたいな読後感にちょっと酔う。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年1月1日号