〈本件後数日、飲み歩いた時なんかは億万長者になったと浮かれており、王だと思っていた〉──便箋16枚にわたる手記には整った字でそんな文章が綴られている。手紙の主は2023年3月に起きた「渋谷貴金属店8000万円強盗事件」の指示役として逮捕・起訴された石原信也被告(23)。
その手記で主張されているのは、謎が多いこの事件を引き起こした“本当のワル”は別にいる──という内容だ。
改めて整理すると、東京・渋谷の貴金属店から8000万円相当のアクセサリーなどが奪われたこの事件で、店に押し入った実行役は三重県の19歳男性だった。翌月に逮捕された石原被告は現在、名古屋の留置施設で窃盗などの余罪の取り調べを受けているが、手記には〈メディアが先走って強盗団リーダー指示役と言われる様になりましたが色々と語弊があるのでこの場で真相を明らかにします〉(以下、〈 〉内は石原被告の手記)とある。
事件が複雑なのは実行役と指示役とは別に、「孫悟飯」を名乗る人物が介在していることだ。
実行役となった19歳男性は、石原被告から紹介された「孫悟飯」に脅され、強盗をはたらいたとされる。手記には、〈「孫悟飯」の正体について語ります〉とある。そもそも、こうした犯罪に関わる人物の間では、人気漫画の登場人物を名乗るのが“ブーム”だという。
〈テレグラムという警察が後に履歴を復元出来ないチャットアプリを使用するのだが、その時に名前をキャラクターにする流れがある。(中略)「ルフィ」「キム」「ミツハシ」「孫悟飯」、そんな感じで私は「恒騎」です〉
問題の「孫悟飯」に直接会ったことはなく、〈誰なのかというと私も実行役の子すら本当に分からない。けれど関わりを持ったのは事実です〉とする石原被告。関わったきっかけは、「闇バイト」だったという。
〈実行役の子の代わりに闇バイトで窃盗の案件をツイッターで探している際に知り合いました〉
SNSを介して通話した際に「孫悟飯」は、〈海外で(振り込め詐欺の)かけ子を管理している事〉〈保証金なしで窃盗の(闇バイト)案件をくれる事〉などを明かしたという。当初は〈ツイッターで直で通話してくるレベルなので大した奴では無い〉と感じていた。だが、その後に印象は一変する。
〈(孫悟飯を)実行役に紹介したらスマホにウイルスを入れられ個人情報を抜かれて、実行役の子が恋人や家族を人質にされて金100万円を脅されていた。そして怯えた実行役の子は金を用意する為に強盗をしました〉
実行犯は「孫悟飯」に危害を加えられることに怯え、犯行に及んだというのだ。石原被告は自身について〈元々、窃盗のグループをしていた〉とするものの、今回の事件には主体的に関わっておらず、奪った金の一部を手にしただけと主張した。
〈「孫悟飯」の主体は知らないが、今回の事件の要因になった人物である〉
当然ながら石原被告の主張を鵜呑みにはできないものの、当局も「孫悟飯」の行方を追いながら特定には至っていないとされる。事件の全容解明は、まだ遠そうだ。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号