ドラマの中で登場人物が使用したり身に着けたりする家具などの小道具や衣装。それらのスタイルは時に流行を生み出し、またある時は流行を映す鏡ともなる。ドラマオタクのエッセイスト、小林久乃氏は、ドラマの中のある「効果音」にトレンドの変化を感じたという。1990年代から2020年代にかけて、その音は「意味」まで変わってきたようだ。小林氏が考察する。
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年末年始の恒例行事と化したTVerの番宣を兼ねた過去作ドラマ祭りが始まった。古くは1990年代から最近のドラマまで、一気に無料配信している。これが“昭和生まれ、平成青春育ち”からすると、非常に楽しい。地上波のテレビ番組を見ているよりも、時に高揚感を感じることがある。
どんな作品を見ているのかというと……まずは平成が残した名作で、私がほぼセリフを覚えるまで繰り返し見た『ロングバケーション』(フジテレビ系・1996年)。女性が年上であるカップルの恋模様が、ナチュラルに描かれているのが斬新だった。それから人の性根の悪さが滲み出る、永作博美と松下由樹の姉妹役バトルが見ものの『週末婚』(TBS系・1999年)。行政書士を取り上げたお仕事ドラマ『カバチタレ!』(フジテレビ系・2001年)は、気の強い、コメディタッチの深津絵里の演技が見られる貴重な作品だ。
そんな過去作で気づいたのは、ヒロインたちが「カツカツカツ……」と威勢よく、ヒールの踵を鳴らして歩いていること。出演する会社員も警察官も、皆、女性は当たり前のように履き「カツカツカツ……」と、音を立てる。ヒール高3センチのローヒールや、太さが売りのウエッジソールでもない、ヒール高7センチ以上はありそうなハイヒールだ。
そう気付いてから、街中で何度も耳をすませてみた。でも、あのヒール音は聞こえてこない。時折、音がしたと思って向いてみると、ハイヒールを履いているのは40代以上と思しき女性ばかりだ。一方、若者の多くが履いているのは、極太ヒールタイプが主流。
現在放送中のドラマを見ていても、ハイヒールを履くヒロインはむしろ珍しいくらい。はてこの現象、いつから始まったものだろうか?