大手事務所に所属するトップアイドルから、手狭なライブハウスで日夜汗を流す「メンズ地下アイドル(以下、メン地下)」まで──。「推し」という言葉が一般的になった今日、存在感を増しているのがメンズアイドルだ。トップアイドルらとは違い、「メン地下」の現場では“生き残り”をかけたシビアな現実が広がっている。
今回は、地下アイドルを含めむ界隈に頻繁に潜入しているグラビアアイドル兼ライターの吉沢さりぃ氏と、綿密な取材で「メンズアイドル」の実態を浮き彫りにした漫画『夢なし先生の進路指導』の作者・笠原真樹氏が、過去に「メン地下」として活動した二人の男性にインタビュー取材を敢行。夢に満ちた世界の現実を、当事者たちが赤裸々に語った。【前後編の前編。後編を読む】
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吉沢さりぃ(以下吉沢):みなさま、今日はよろしくお願いします。
一同:よろしくお願いします。
吉沢:まずは、お二人がなぜメンズアイドルを志したのか教えていただけますか?
元アイドルA(以下A):昔、営業で物を売る仕事をしていたんですが、どうせ売るなら自分自身を売りたいなって思うようになったんです。それで自分を商品にできる仕事をしてみたいな、と。
編集:メン地下の事務所に応募されたのですか?
A:最初からメン地下を目指したわけではなくて、(自分自身を売る仕事ということで)安直にホストに体験入店したら、そこでスカウトされたんです(笑)。
笠原真樹(以下笠原):そんなことあるんですね!
A:ハイ。そこからはもうズブズブとメン地下の世界から抜け出せなくなってしまいました。
吉沢:Bさんはどういった経緯でメン地下に?
元アイドルB(以下B):僕はもともと某大手事務所に入っていたんですよ。
一同:おぉ〜〜。
A:エリート!
吉沢:自ら応募されたんですか。
B:いや、母親が応募しました(笑)。応募後すぐに電話がきて、いきなりレッスン受けて、合格した人は翌日有名ユニットのバックで踊るという。
編集:その家族推薦パターンの話はよく聞きますが、本当にある話なんですね。
笠原:せっかく超メジャー級な場所にいたのに、何故わざわざメン地下に?
B:女関係でちょっとやらかしちゃいまして……干されたので辞めました。
A:自業自得(笑)
吉沢:どんな干され方だったのですか?
B:明らかに(ステージでの)立ち位置が微妙になって、やる気を失いました。で、辞めたあとにお小遣い稼ぎでライブをやったんですが、やっぱりエンタメの世界に戻りたいなぁと思いまして。
「A君と会えるのが生きがい」と話す未亡人女性
A:Bちゃんはメン地下でもメジャーデビューしたもんな!
笠原・編集・吉沢:えーーーー!! すごい!!
B:一応動員3000人のキャパのライブハウスをソールド(完売)させました。
吉沢:全然地下アイドルの規模じゃない!
B:大手事務所でメジャーになるのが夢だったけど叶わなかったから、絶対に何がなんでもメジャーにいきたかった。同じバックダンサーだった奴らが大阪城ホールでライブしてたりTVやYou Tubeで活躍してるのを見てて悔しかったから。
編集:下剋上ですね。
A:泣けてくる。相当悔しい想いをしてきたんやな。
吉沢:どれくらいの期間でメジャーにいけたんですか?
B:はじめた当初は動員が20人いるかいないか。そこから3年ですね。
A:はや!
編集:20人スタートから3000人!? すごいですね。
笠原:夢が叶ったんですね。
吉沢:最近のメン地下だったら動員20人でもすごいほうなのに、3000人は偉業ですね。Aさんにはメジャー志向はなかったんですか?
A:う〜ん。僕は完全大学デビューした元陰キャだったので、メジャーになりたいまではなかったです(笑)。
編集:やりがいは感じていましたか?
A:それはもちろん! 自分の性格も明るくなったし、見た目にも気を使うようになって、キャーキャー言われて世界が変わりました。何より、あるファンの人から「Aくんと会えるのが生きがいだ」って言われたことは嬉しかったです。
その方は自分の母親世代の人で、お見合い結婚して旦那に先立たれ、子供は自立。興味ないのに実家の畑だけ残されて「もういつ死んでもいい」って思ってたらしいんですよ。それが僕と出会って、ライブを見たりチェキを撮ったりすることで生きる気力が湧いたらしくて。なかなか普通の仕事だとこんな風に言ってもらえることはないから。
編集:人助けだ……。
A:ファンの人とwinwinの関係というか、自分みたいなもんでも誰かのモチベーションになれる仕事ってなかなかない。きついけどやりがいは感じてました。
月収は「3万」から「200万円」まで
吉沢:お二人はメン地下の中でもかなり上のランクにいたと思うんですが、ぶっちゃけ初任給ってどれくらいもらってたんですか?
B:3万円っす。
編集:月収がそれだと厳しいですね……。
笠原:生活できないですね。
B:メン地下の中ではファンが多い界隈だったんでチャンスは多いけど、チェキバック(※チェキの売上げに対してメンバーがもらえる報酬)は2割くらいでした。
編集:少ないですね。
笠原:最近取材した時は3割バックが相場でした。
B:給料もですが、何より僕は最大手のアイドル事務所を経験してるから全てが理解できなかった(笑)。
吉沢:全てが理解できなかったとは?
B:チェキ撮って、それが給料っていうのが意味わからんっていう。前はパフォーマンスで勝負してたんで。
A:メン地下はパフォーマンスがいくら良くてもチェキが売れないと給料ゼロだもんね(笑)。
吉沢:Aさんの初任給も同じくらい?
A:うーん、まぁそうですね。僕はずっとメン地下と系列のカフェバーの兼業で生活費を稼いでいました。メン地下だけでは稼げずにコンカフェやバー、配信とかの副業で稼ぐ人は多い印象です。アイドル業だけだとなかなか生きていけないのが現実というか。
B:僕はメジャー・デビューするまでの1年はアイドル1本で月収100万円超えてました!
一同:すごーーーーい!!
笠原:それは純粋にチェキバックのみで?
B:はい。
編集:チェキ1枚1000円で2割バックとして……1ヶ月で5000枚くらい売ってるってことですか。
吉沢:毎日ライブがあったとして、そのたびに100枚以上売ってたってことですよね?
B:そうっすね。1番人気のメンバーは月収200万円超えてました。
吉沢:ということは月に1万枚くらいチェキを売っている?
編集:1回のライブで300枚以上売らないと計算が合わない……。
ファン同士で「チェキの殴り合い」
A:100チャレする子もいるから、1回のライブで100枚はそこまで難しくないかな。
笠原:100チャレってなんですか?
A:チェキを100枚撮るチャレンジのことです。オタク用語で100チャレ。
B:100チャレ! 懐かしい。
編集:1人のファンの方が1ライブで100枚チェキ撮るってことですよね?
A:はい。ファン同士でチェキの殴り合いを楽しんでる。
B:鍵開け鍵締め〜って(笑)。
吉沢:チェキの1枚目(鍵開け)と最後(鍵閉め)はやっぱりこだわる人多いんですね。
A:誰が何枚買ったかよく見てますよ(苦笑)。すごい子はチェキの時間をタイマーで測ってますもん。
笠原:なるほど。自分が損してないか、他が優遇されてないかチェックしてると。
吉沢:1秒でも自分より扱いがいい子を見つけると目をつけるんですか?
A:そうです。
B:僕はパフォーマンスを見て応援してほしかったタイプの人間なんで、結局チェキ会で喋りたいだけか〜って萎えてました。
吉沢:私の友人がメン地下通ってた時、毎回10枚以上チェキ買うだけで、他のファンに目をつけられたって言ってたんですけど、100枚って……。
編集:10枚でも1万円の支払いなので、すごいですけどね。
(後編に続く)