「トランスジェンダーがどんな事件起こしたとしても、トランスジェンダーが悪いんじゃありません。その人が悪いことをしたのです」──トランスジェンダーに対する世間のバッシングが激しかった2023年5月、モデルでゲーマーの佐藤かよは自身のTwitter(現X)にそう投稿した。佐藤自身、当事者として生きる中で、世間の無理解や偏見に苦しんできた。そんな佐藤が今、伝えたいこととは何か。旧知の編集者の小林久乃氏が聞いた。【前後編の後編。前編から続く】
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佐藤かよの過去10年間ほどは息をつく暇もなく、目まぐるしかった。地上波テレビでの性同一性障害の告白。女性としての見た目の美しさと性別とのジェンダーギャップに、多くのメディアが彼女に注目した。
一方で、彼女はどこかに息苦しさがあったと語る。その答えを求めるように、ニューヨーク、ロサンゼルス、フランス、タイと諸外国を渡り歩いた。そこで各国でのLGBTへの対応の違いを感じ、時には悩みもした。最終的に韓国に住まいを決めて、得意のゲームで解説者になった。新型コロナのパンデミックによって帰国を余儀なくされ、現在は日本で再びタレントとしての活動を始めている。
「ずっと日本にいて、それから海外でいろいろな経験をして、人間関係の困難もあって……。日本にいた頃よりも、ずっと“人をよく見る”ようになりました。
海外へ出かけたから順風満帆なわけではなくて、嫌な思いもしましたよ。一応、大人ですからね(笑)。交際した人もいたし、私に好意を持ってデートに誘ってくれた人もいた。でもトランスジェンダーであることを伝えると、その場で去っていく男性もいました。
あとは……私がいない場で、私の性別について噂話をしていた人も。その人は周囲にプチサプライズをしたかったんでしょうね。でもその瞬間に『あ、この人は私の人生に必要のない人だ』と、関係を断ち切ることができるようになりました。それが“人を見る”ということかな」
彼女がトランスジェンダーであることを告白した2010年頃は、日本国内には性自認の問題に対する理解や認知が今と比べてまったく足りていなかった。あれから時を経て、彼女の目から見た今の日本はどんなふうに映っているのだろう?
「ニュースを見ていると『2023年の今、その価値観で論争をしているの?』と目を丸くすることがよくあります。例えば渋谷区の公衆トイレ問題。男女共用トイレを見た渋谷区議会議員がSNSで『渋谷区としては女性トイレをなくす方向性』と発信して議論が巻き起こりました。または『同性婚を認めたら少子化が続く!』との声が多く挙がること。なかには『トランスジェンダーみたいな、おかしな人を許しません!』という声も聞くことがあります。
こうした議論を見るたびに、政治の場や公共事業に関する仕事をしている人たちは、LGBTの問題に興味がないんだろうかと、切なくなることもあります。見ている世界の落差があまりにも大きすぎるなって」