年末年始、旅行や帰省する人も少なくないだろう。移動中のお供に持っていきたい、おすすめの新刊を紹介する。
『平家物語』/林真理子/小学館/1870円
『平家物語』がこんなに面白く読めるなんて。幼い安徳天皇が三種の神器とともに入水した平安末期の壇ノ浦の戦い。そのシーンを「序」とし、語り手を変えながらそれまでの経緯を「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」として描く。現代の目を通せば「女は(男子)を産む機械」であり「娘は父の出世欲を達成する道具」であった時代の栄光と哀感が迫ってくる。
『きこえる』/道尾秀介/講談社/1760円
ライブハウスの経営者がスカウトしたシンガーソングライターの突然の死、昔の秘密がカネになると気づいた男が落ちる罠、気になる女生徒にストーカーまがいの仕掛けを施した塾講師の顛末など5編。『いけない』に続く体験型ミステリーで、今回はテープや電話の音。デジタルデトックスで訪れた温泉宿などで読めば脳細胞もリフレッシュ。“活字だけで解いてやる気”満々に。
『ツミデミック』/一穂ミチ/光文社/1870円
小説をミニ特集した今号の4冊は本体も色とりどり。本書は赤。イケメンに萌える赤、罪の業火に焼かれる赤など、パンデミック下に発火した罪の短編集だ。一見ホラーでも佳き話の要素を残すが、にっちもさっちもいかない日常に善が咲くのは「特別縁故者」と「祝福の歌」。前者の失業中の若い父親と偏屈老人の腹の探り合い、後者の音痴の遺伝のいたずらなど心があったまる。
『わたしに会いたい』/西加奈子/集英社/1540円
がん体験記『くもをさがす』と姉妹編のような短編小説集。自分を励ます内的自我を外に出し、愉快な展開で楽しませる表題作。がん細胞が「あなた」という全体に語りかける「あなたの中から」。ラストの解放感がたまらないシングルマザーと娘の「ママと戦う」。「クソ」「タコ」「ボケ」など悪口雑言が夜空に響く「チェンジ」など、体の底から噴出する言葉がパワフルで気持ちいい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年1月4・11日号