『80歳の壁』など数々のベストセラーを生み出す和田秀樹医師が、「58歳から元気になる方法」をテーマに、現役世代の悩みに答える。病気の早期発見・予防のために行われている健康診断が、役に立つどころか、かえって健康悪化につながる可能性があるという。一体どういうことか。和田医師が語る。
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働く男性の多くが受ける職場などでの定期検診が義務化された1970年代以降、現在に至るまで男女の平均寿命の差が縮まるどころか開いている点に着目し、健康診断を受けることが長生きにつながるわけではない、という論点(連載第1回ほか)を以前紹介しました(1947年頃、男女の平均寿命の差は3〜4歳だったのが、現在は6歳以上、女性の平均寿命が長い)。
反対に、健康診断の結果、数値が基準値を超えているからと血圧の薬を飲み始めたり、血糖値を下げる薬を飲み始めたり、あるいは食べたいものを我慢する生活が始まることで、ストレスが増え、そのことが健康リスクになっている可能性があります。
健診結果によるストレスが寿命を縮める?
健康診断が持つ逆説的な側面を示す事例として、よく引用されるものに「フィンランド症候群」があります。
1970年代から1980年代にかけて実施された研究で、フィンランド保険局が40歳から45歳の上級職員約600人を選び、定期健診、栄養学的チェック、運動、タバコ、アルコール、砂糖、塩分摂取の抑制指示に従うように依頼し、いわゆる健康的な生活を指導しました。
同時に、同じ年頃で同じ職種の約600人の別グループをつくり、こちらには何の指示も与えず、調査票(問診票)の記入だけを依頼しました。被験者個人の気ままな生活にまかせたため、あまり健康的でない生活になってしまうのも仕方ないと考えたようです。
その後、この両グループを観察していったのですが、常識的に考えれば、健康的な生活を強いられたほうが長生きしそうなところ、15年後に調査してみると、驚くべき結果が出ました。後者の健康管理されていないグループのほうが、心臓血管系の病気、高血圧、がんなどによる死亡に加えて自殺まで、いずれも健康を管理されていたグループより数が少なかったのです。
健康に気をつかっていないほうが、病気もしないし、死亡率も低かったということは、心の問題が身体に影響を及ぼした結果なのだろうと推測されます。
健康診断の実施による早期の医療の介入が長生きに寄与しないことが各種調査や研究でわかってきた今、世界的に見ても定期健診や集団健診を義務化しているのは、日本のほかは韓国などしかありません。