国内

【佳子さまは女性宮家創設を望まれるか】女性・女系天皇に関する議論の行方 重要視される「女性皇族のご意思」

皇室を長年研究してきた明治学院大学名誉教授・原武史氏(左)と皇室解説者・山下晋司氏

皇室を長年研究してきた明治学院大学名誉教授・原武史氏(左)と皇室解説者・山下晋司氏

 愛子さま(22)が3月に学習院大学を卒業し、9月には秋篠宮悠仁さま(17)が成人を迎える。皇族の減少に歯止めがかからないなか、「皇位継承問題」がいよいよ喫緊の課題になる。皇室を長年研究してきた明治学院大学名誉教授・原武史氏と皇室解説者・山下晋司氏が揺らぐ皇室制度を語り合った。【前後編の前編】

山下:2004年に小泉政権下で皇室典範改正の議論が始まってまもなく20年です。2005年に有識者会議が女性・女系天皇の容認や長子優先に言及した報告書を小泉首相に提出しましたが、翌年、秋篠宮家に「男系男子」の悠仁親王殿下が誕生したことにより、改正の議論は棚上げになりました。以降、政治家や有識者は主義主張こそ掲げますが、“落としどころ”を探る気はなさそうです。

原:亡くなった安倍晋三元首相を中心とした自民党右派は戦前への郷愁が強く、明治期に成立した旧皇室典範の根幹を受け継いだ現皇室典範の改正に反対しています。彼らにとって悠仁親王の誕生は天祐でした。国民全体から見れば少数派ですが、「万世一系」のイデオロギーを奉じていて、女系天皇や、女系天皇に繋がる可能性のある女性宮家には否定的です。明治天皇も大正天皇も唯一生き残った男子だったせいか、悠仁親王だけで十分と考えているようです。

山下:江戸期の仁孝、孝明から明治、大正までの天皇は4代続いてひとりしか成人した男子がいない綱渡りでした。男系男子に固執する勢力は、悠仁親王殿下が結婚され、男子のお子さまが誕生されることを期待しているのでしょう。

 自民党内にも女性宮家や女性・女系天皇を容認すべきと考える人たちはいます。ただ、その人たちに共通するのは「悠仁親王殿下までの皇位継承順位は変えてはいけない」ということです。悠仁親王殿下が将来の天皇となるべく成長しておられる途中で変えるべきではないというのは当然です。

原:政府だけでなく皇室内にも課題があります。男性よりも女性に負荷がかかるしきたりの問題が無視できません。宮中には女性特有の出血を“穢れ”と捉える考え方があり、生理中の女性は宮中三殿での拝礼や伊勢神宮参拝ができません。

 初代宮内庁長官の田島道治が記した『昭和天皇拝謁記』によると、昭和天皇は妻の香淳皇后の生理の周期を把握し、その個人情報を田島と共有していました。女性に対するこうした考え方を改めない限り、女性宮家や女性・女系天皇の議論は進まないでしょう。

山下:今は民間から皇室に入ることが当たり前ですから、宮中のあり方も変えていく必要があります。また、女性皇族自身の「ご意思」も重要です。皇室離脱願望が強いと言われている佳子内親王殿下(29)をはじめ、女性皇族が女性宮家創設を望まれるのかどうか。

原:明治以降で最も個人の意思をあからさまに示した天皇は大正天皇でした。御用邸に滞在したことがなかった明治天皇とは対照的に、天皇になっても葉山や日光の御用邸に長期滞在し、ヨットや乗馬を楽しみましたが、「公」よりも「私」を優先させるスタイルは山縣有朋らによって潰され、体調を崩していきました。

山下:大正天皇の時代は「公」が絶対で「私」はないものだったでしょう。女性宮家の創設にしても、「結婚=皇室離脱」を前提に育ってきた方たちの意思を尊重するのは現代では当然だと思います。

後編に続く

【プロフィール】
原武史(はら・たけし)/政治学者。1962年、東京都生まれ。日本経済新聞社勤務を経て東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授、明治学院大学名誉教授。『昭和天皇』『皇后考』『大正天皇』など著書多数。

山下晋司(やました・しんじ)/皇室解説者。1956年、大阪府生まれ。元宮内庁職員、出版社役員を経て独立。BSテレ東『皇室の窓スペシャル」の監修のほか、週刊誌やテレビなど各メディアでの皇室の解説を担う。

※週刊ポスト2024年1月12・19日号

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン