愛子さま(22)が3月に学習院大学を卒業し、9月には秋篠宮悠仁さま(17)が成人を迎える。皇族の減少に歯止めがかからないなか、「皇位継承問題」がいよいよ喫緊の課題になる。皇室を長年研究してきた明治学院大学名誉教授・原武史氏と皇室解説者・山下晋司氏が揺らぐ皇室制度を語り合った。【前後編の後編。前編から続く】
山下:安定的な皇位継承のため、旧皇族末裔の男系男子を養子縁組で皇族とする案も検討されています。ただ、皇位継承権を持つのは皇室に入った後に誕生した子供からにするのが現実的でしょう。生まれた時から「この方は天皇になるかもしれない」と国民が成長を見守り、本人もその自覚を持って育つことが重要です。
原:「占領軍が日本の伝統を破壊した」と考える勢力が、GHQによる11宮家の解体に反発し、旧皇族の復帰を望んでいる。その中心にいた安倍晋三元首相の言う「美しい日本」は、GHQが戦後改革を行なう前の日本を指していたと思います。
山下:過去を振り返ると、昭和30年代の時点で昭和天皇の次の世代には親王が5方いたので、皇位継承への危機感が薄かった。ところが黒田清子さんから愛子内親王殿下まで女子が9方も続いた。
このままでは悠仁親王殿下の結婚相手に多大なプレッシャーがかかります。それでも結婚しようという人はいるのでしょうか。政治家や有識者は様々な案を柔軟に取り入れ、早急に落としどころを探るべきです。併せて数十年後を視野に入れた制度の見直しも必要です。
原:そう思います。もっと踏み込むなら、皇室制度そのものの存続が問われる時に来ています。平成の天皇は2016年のビデオメッセージで、国民のために祈ることと、国民の傍らに立って声を聞くことを象徴天皇の務めとして規定しました。要は、「宮中祭祀」と「行幸啓」を二大柱とし、存続の条件を厳しくしたのです。でも現状を鑑みるとコロナや雅子皇后の体調問題などで、令和の宮中祭祀も行幸啓も平成のレベルに達していない。つまり象徴の務めを十分に果たしていないことになる。
山下:皇后陛下はまだ病気療養中ですから、活動量は少ないですね。平成は複数泊が普通だった地方行幸啓ですが、令和は1泊2日が定番です。2泊、3泊で訪問されたほうがいいのは確かですが、宮内庁としては欠席されるより1泊でいいのでお出ましいただくことが大事だという考えでしょう。
原:憲法1条には、天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」とあります。国民の総意がもう皇室はいらないと考えるならば、なくていいという話になります。
山下:将来、そうなる可能性もあります。その場合でも、天皇家は最も由緒正しい血統の家として続いてほしいと思っています。そして時代が変わって国民がまた皇室という存在を望むなら、戻っていただきたい。
原:保守派のなかにも「男系が維持できなくなれば解体すべきだ」との意見があるほどです。むしろ左派のほうに、女系天皇も認めて何が何でも存続させるべきという人が多い。
山下:皇室を一本の棒にたとえると、昔は身分制度がありましたので下部に行くほど太くなっていました。しかし今は天皇・皇族だけが特別な存在ですから、社会という大地に細い棒が立っているようなものです。いつ折れてもおかしくない。皇室はそれほどの危機にあります。
(了)
【プロフィール】
原武史(はら・たけし)/政治学者。1962年、東京都生まれ。日本経済新聞社勤務を経て東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授、明治学院大学名誉教授。『昭和天皇』『皇后考』『大正天皇』など著書多数。
山下晋司(皇室解説者)(やました・しんじ)皇室解説者。1956年、大阪府生まれ。元宮内庁職員、出版社役員を経て独立。BSテレ東『皇室の窓スペシャル」の監修のほか、週刊誌やテレビなど各メディアでの皇室の解説を担う。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号