東京地検特捜部による自民党最大派閥・安倍派の裏金事件捜査が大詰めを迎えている。これまで数々の政権崩壊の舞台裏を見てきた2人のレジェンド政治ウォッチャー、屋山太郎氏とジャーナリスト、田原総一朗氏が政局激動を展望する。【全3回の第1回】
田原:最大派閥の安倍派がダメになれば、総理大臣もダメになる。岸田内閣は土壇場まできた。
屋山:政界再編になると思ったね。政治の土台を変えないといけない。
田原:今回の裏金事件の構図を言うと、ノルマを超えて派閥のパーティー券を売ると、超過分が議員にキックバックされて裏金になっていた。では、議員はそのカネをどう使ったのか。いろんな政治家に配るわけよ。選挙の時なら、応援してくれる地方議員とか。相手によって金額が違うし、渡さない相手もいるから表に出すわけにはいかない。だから裏金が必要になる。
屋山:政治家がそんな風にお金を払う、政治にカネがかかるという前提でいるから、国民は怒る。国際常識から見て、もうやめりゃいいんだ。
田原:そうしたら日本の政治は成り立たない。
予算成立後が“その時”
屋山:リクルート事件の時に、もっと政治家のカネのやり取りを厳密に規制して透明化する議論があったが、結局、ウヤムヤになってしまった。あれが失敗だった。リクルート事件の後、不透明なカネのやり取りはどんどん金額が膨れあがって、河井克行夫妻の選挙買収事件で地方議員らに配られたのは総額1億5000万円にのぼった。
田原:それにしても今回の裏金問題では、安倍派の大臣、副大臣、党幹部が全部辞任した。これは政権が倒れるくらいの重大問題。だが、今の野党は、政権奪取するつもりがまったくないから、支持率が下がっても、秋の総裁選まで岸田政権がダラダラ続き、自民党も一緒に沈んでいくということになるのでは。
屋山:国民の頭の中ではもう岸田政権は潰れている。支持率は下がる一方で、減税だ、少子化対策だと世論を引きつけようと手を打っているが、世論は反応しない。岸田には解散・総選挙を打つ力も残っていない。そうなると退陣が想定されるが、自民党の政権維持を考えれば、早期が望ましい。3月がそのタイミングとなるだろう。9月の総裁選を待って新総裁を選ぶなんてふざけたことができる状況ではない。
田原:3月は早いのではないか。
屋山:3月というのは、一つには予算を仕上げる責任を果たす必要があるということ。また、検察も今回のパーティー券の捜査は早期に決着させたいだろう。もたもた捜査するのではなく、急ぎ2~3人の政治家を起訴して仕上げたい。だから3月までには何らかの形で決着する。岸田は、安倍派の問題であるかのような態度だが、これは自民党の問題であり、逮捕者が出れば、総理・総裁の責任論につながり、内閣総辞職に追い込まれるわけだ。それを見越して自民党内で岸田おろしが始まると見るべきだろう。(文中敬称略)
(第2回に続く)
【プロフィール】
屋山太郎(ややま・たろう)/1932年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業後、時事通信社に入社し政治部へ。ローマ特派員、ジュネーブ特派員、首相官邸キャップ、編集委員兼解説委員等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラム会長。『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(ともに海竜社)など著書多数。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、1977年、フリージャーナリストに。『日本の政治 田中角栄・角栄以後』(講談社)、『さらば総理 歴代宰相通信簿』(朝日新聞出版)など著書多数。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号