東京地検特捜部による自民党最大派閥・安倍派の裏金事件捜査が大詰めを迎えている。これまで数々の政権崩壊の舞台裏を見てきた2人のレジェンド政治ウォッチャー、屋山太郎氏とジャーナリスト、田原総一朗氏が政局激動を展望する。【全3回の第2回】
田原:一番の問題は、自民党に「次は俺がやる」という政治家がいないことだ。かつては、党が危機に陥った時、小泉純一郎や安倍晋三が「俺がやる」と名乗りを上げた。しかし、今の自民党は、党の支持率がこんなに下がっても、危機意識がまったくなく、誰も火中の栗を拾おうとしない。私の取材でも、「岸田やめろ」と言う人は1人もいなかった。そういう状況を岸田もわかっているから支持率が下がっても自分は総理を続けられると妙な自信を持っている。
屋山:次の総理・総裁選となると、有力候補と言われる幹事長の茂木敏充は、頭はいいが、人望がないと言われている。
田原:茂木は、岸田から「次をやってくれ」と言われたらやるだろうが、岸田から奪う気はないんだと思う。かといって安倍派からはあり得ない。
屋山:人気という点では河野太郎か小泉進次郎がいいんじゃないか。進次郎はまだ修業中の身で、思想が感じられないというのが難点だが。国民の人気はあっても支持にはなっていない。
田原:進次郎の失敗は環境大臣になった時、大臣だから力があると錯覚したこと。環境政策に力があるのは経産大臣で、環境大臣にはまったくない。なのに力があると思っていろいろやろうとしたけどうまくいかなかった。
屋山:河野は中国との距離が近いと言われていて、その点で不安がある。
田原:マイナンバー問題で国民を失望させた。小泉純一郎や安倍晋三は、総理大臣になったらこれをやるというのを持っていた。岸田は、総理大臣の在任期間を長くしたいだけ。だが、現在の状況で首相のクビだけをすげ替えても、後継総理が「自民党を変える」という人物でなければ、国民の支持は得られない。
屋山:当然だろう。
田原:そういう中で石破茂の名前を挙げる向きもある。石破が前回の総裁選に立候補すると言ってきた時に、僕は、「自民党がみんな安倍イエスマンだった時、あなただけは総裁選で挑んだ。応援するから頑張りなさい」と激励した。ところがしばらくすると、「田原さん、悪いけど立候補しても絶対当選しないことがわかった」と河野支持に回ると言ってきた。石破が総理大臣に意欲があるのは間違いないが、本人にその気があっても自民党内に石破を担ごうという議員がいない。それでは岸田おろしは無理だろう。
屋山:注目すべきは、高市早苗だと思う。高市には今のところカネの疑惑はなく、派閥にも入っていない。女性という点も、選挙にはプラスになる。今年は安全保障の問題がさらにクローズアップされるはずで、高市は国防、安全保障にも長けている。カネと派閥の問題が問われる中、高市が総理総裁を目指すには非常に有利な状況。自民党内の多くが高市支持に動き、岸田おろしに向かうという流れはあり得る。(文中敬称略)
【プロフィール】
屋山太郎(ややま・たろう)/1932年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業後、時事通信社に入社し政治部へ。ローマ特派員、ジュネーブ特派員、首相官邸キャップ、編集委員兼解説委員等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラム会長。『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(ともに海竜社)など著書多数。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て、1977年、フリージャーナリストに。『日本の政治 田中角栄・角栄以後』(講談社)、『さらば総理 歴代宰相通信簿』(朝日新聞出版)など著書多数。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号