今年は世界的な“選挙イヤー”となるが、最も注目されるのが11月の米大統領選だ。ロシア、中東情勢が混迷を極めるなか、誰が次期米大統領になり、どう動くのか。そして日本はどのような舵取りを迫られるのか。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が読み解く。【全3回の第1回】
佐藤:米国の核の傘の下にいる日本にとって大統領選挙は極めて重要なイベント。日本の国家存亡を左右する“我々の選挙”と考えるべきです。
手嶋:いま現在の世論調査では、今年の米大統領選はトランプとバイデンの一騎打ち。しかもトランプの再登場もありうる。史上最も不毛な選択です。
佐藤:私は実はトランプ推しです。民主党のバイデンは自由や民主主義を普遍的な概念として押し付けて軋轢を生みますが、ディール(取引)を好むトランプ外交は「棲み分け」が基本で、戦争を極力避けようとする。彼は、米国の陸海空軍と結びつき、強大な政治勢力となった軍産複合体とも縁がない。
手嶋:軍産複合体は2024年を読むキーワードです。元々共和党には、軍産複合体と結託した金融・産業資本とつながるエスタブリッシュメントと、宗教色が強いグラスルーツ(草の根)の2つの潮流がある。トランプの主な支持基盤は、プアホワイトの労働者層です。軍産複合体はウクライナ戦争に武器・弾薬を供給し、「在庫一掃セール」で大儲けしています。トランプはそんな財界主流と距離があり、再選を果たせばゼレンスキー支援を抜本的に見直すでしょう。
佐藤:トランプが再選すればウクライナ戦争は直ちに終わり、プーチンは黒海沿岸をすべて手中に収め、モルドバ共和国東部の沿ドニエストル地域まで支配下にする可能性が出てきます。こうした地政学的変化でかえってロシアの負担は増すので、プーチンはトランプ再登板の可能性に頭を悩ませているはずです。
手嶋:トランプの対抗馬バイデンは高齢で最高司令官の任に堪えられるのか疑わしい。核のボタンを委ねる大統領の重責を果たせるでしょうか。加えて副大統領候補のカマラ・ハリスが力量不足で民主党陣営も頭が痛い。
こんな惨状で戦いが進むのか疑問です。超大国の米国は逸材を抱えています。“不毛の選択”に異議ありの声が高まり、インド系の女性候補を含めた挑戦者が出てくることを期待したい。大統領選まで1年、予期せぬ事態はあり得ると思います。
(第2回に続く)
【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年、北海道生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局長などを歴任。2005年に退職後、作家・ジャーナリストとして活動。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。
佐藤優(さとう・まさる)/1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。主著に『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』などがある。
※週刊ポスト2024年1月12・19日号