芸能

小林旭が語る“昭和の映画界とヤクザ”「役者としても本物から学ぶところが多かった」「不良性を排除して、リアルな映画が撮れるわけない」

なぜ表舞台から距離を置いたのか

昭和の映画界ではヤクザは身近な存在だったと振り返る

『仁義なき戦い』や『渡り鳥』シリーズで知られる銀幕スター・小林旭(85)。昭和の映画界に生きた俳優は当時、“本物”からも役者としてのヒントを得ていた。当時の交友関係、現在のヤクザ映画への思いなどを小林が語る。【全4回の第3回。第1回から読む

 * * *
 現代社会じゃヤクザとの交際なんて論外だろう。でも昭和の映画界ではヤクザは身近な存在だった。

 芸能プロダクション「神戸芸能社」を率いた山口組三代目の田岡一雄組長からは「旭ちゃん、ヤクザは極道。極道ってのは道を極めるんだ」と教えられて、その言葉の重みに唸ったもんだ。

 俺は後藤組の後藤忠政組長のゴルフコンペに参加して騒動になった。六代目山口組の関係者とも人間と人間の付き合いはできる。

 あの世界で上に上がる人は器が違うんだよ。何百人、何千人の若い衆を抱えて一家を構えるんだから、堪えることを知っていて懐が深い。並の神経じゃ務まらない商売だ。

 役者としても本物から学ぶことは多かった。『仁義なき戦い』の撮影前には、政治結社「共政会」の二代目会長・服部武さんと銀座で飲み食いさせてもらった。俺が演じた武田明のモデルになった人物だ。あまりにしつこく俺が質問するから若い衆が怒りだして、「おいコラ! 何しとんのや!」と怒鳴るのを、親方が「いいから、いいから」とたしなめてくれたのを覚えている。

 服部さんは広島のヤクザをまとめようとした。貫録があって、ヤクザたるものこうでなきゃいかんという気概に溢れていた。ずいぶん役作りの参考にさせてもらった。

 彼から学んだことを少しでも表現しようと努力した結果が、スクリーンに映る武田明になった。主演の菅原文太より俺のほうが目立ったのは服部さんのおかげだよ。

 映画にしたい大物もいるんだけど、桜田門一家(警視庁)の連中が待ったをかけてくる。

 東映で『民暴の帝王』(1993年)を撮影した時も、実際のヤクザのエピソードを入れようとしたら、「東映は銀行付き合いができなくなるぞ」と桜田門一家のマル暴が横やりを入れてきた。岡田茂社長(当時)は「旭ちゃん、警察がこんなこと言ってくるんだ。仕方ないから少し話を変えたよ」とボヤいていた。

 本物のヤクザは表に出たら7人の敵がいて、いつ命を狙われるかわからない。仁義うんぬんの前に、生きるか死ぬかを常に抱えている商売だから、伸び伸びと生活するなんてことはなく、いつも気を張っている。

 その研ぎ澄まされた空気感を体現できる俳優が今はいない。チンピラの真似事をしているだけで、本当のヤクザを表現しきれていないんだ。

 だから最近のヤクザ映画は観ていないし、観る気もしない。不良性を全て排除して、リアルなヤクザ映画が撮れるわけがないんだよ。

(第4回に続く。第1回から読む

※週刊ポスト2024年1月12・19日号

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン