写真家の篠山紀信氏が亡くなった。雑誌文化の盛り上がりとともに時代を切り拓いてきた篠山氏が生んだ言葉といえば「激写」だ。総合男性誌『GORO』(1974~1992年、小学館)で連載された「激写シリーズ」では山口百恵を皮切りに、女優、アイドル、街中で見かけた女子大学生らが登場。引き出された一瞬の表情の鮮烈さに読者は夢中になった。篠山氏が撮影した表紙やポスター付録も毎号話題となり、雑誌の売れ行きを押し上げた。ここに並ぶ雑誌の「顔」を見るだけで、熱い気持ちが甦る。
『GORO』の元編集長・蜂谷紀生氏(83)が、撮影現場での思い出を語る。
「篠山さんは被写体の心を掴んで“瞬間”を捉えるのが上手。撮影前日までに、スタッフと篠山さん、被写体の女性で食事に行くのが恒例でした。“話し上手で聞き上手”な篠山さんにかかれば、彼女たちもすぐに心を開いていた印象です。
当時は、時代が篠山さんの写真を求めていた。女性たちの魅力そのものがスクープであり、グラビア写真でも新しい時代を作ることができるのだと感じましたね。『GORO』における『激写』は革命の旗振り役のような存在でした。
こんなこともありました。篠山さんと数人で静かなお店で飲んでいた時のこと。妻の南沙織さんがいらっしゃって、彼女が自分の曲『17才』を歌ってくださった。その時の篠山さんの照れた顔が新鮮で、今でも忘れられません。
芸能界に限らず、あんなに周囲から愛された人はいないと思います。最高の作品を作る、写真界でずば抜けた人でした」
取材/渡部美也
※週刊ポスト2024年1月26日号