能登半島でM7クラスの地震が起きる──1年前、「週刊ポスト」でそう警鐘を鳴らしていた地震学者がいる。その予測が現実となり、「巨大地震の兆候は他にもある」とこの学者は指摘する。最新の研究で「地下の異常」を観測した警戒エリアとは。
阪神・淡路の4倍
〈1993年の「能登半島沖地震」、2007年の「能登半島地震」の震源分布を詳細に見ると、海岸線に沿って大きな断層が隠れているように見えます。(中略)ここでM7クラスの活断層型地震が起こる可能性が高いと考えられます。地震予知研究のグループでも、近い将来、能登半島内陸で非常に大きな地震が起きるのではと警戒し、観測網の強化を進めています〉(『週刊ポスト』2023年1月13・20日号)
1年前に「週刊ポスト」でこう警鐘を鳴らしていたのは、東海大学・静岡県立大学客員教授で日本地震予知学会会長の長尾年恭氏。
元日に発生したM7.6、最大震度7の「令和6年能登半島地震」は死者200人超という人的被害のほか、家屋の倒壊や津波、火災、土砂崩れによる甚大な被害をもたらした。同地方では過去3年以上にわたり群発地震が活発化していたが、能登半島の異常をいち早く察知し、M7クラスの地震発生を予見していたのが長尾氏だった。
なぜ、地震の発生箇所と規模について、精度の高い予測が可能だったのか。長尾氏は気象庁が公表する地震の震源データを、独自開発したアルゴリズム(RTM法)で解析。異常(地震活動の活発化と静穏化)が起きているエリアを天気図に模してマップ化した「地下天気図」を随時作成している。長尾氏が語る。
「われわれ研究者は地震活動の活発化だけでなく、静穏化(ある地域で一定期間、地震発生が少なくなる現象)も異常を示すものとして注視します。静穏化異常が解消された後に大地震が発生するケースや、大阪府北部地震(2018年。M6.1、最大震度6弱)のように静穏化の最中に地震が発生するケースがあるためです」(以下、「」内は長尾氏)
昨年5月に珠洲市で震度6強の地震が発生した後、長尾氏は予知研究支援のため設立した株式会社DuMAのニュースレターで「M7クラスの地震発生」への警戒情報を繰り返し発信、注意を促していた。そして今年元日、長尾氏の予測が現実のものとなった。
「今回の地震は、東日本大震災や関東大震災などを起こしたプレート境界型ではなく、阪神・淡路大震災(1995年、M7.3)などと同じ内陸型(直下型)です。内陸型としては、岐阜県・愛知県を中心に発生した濃尾地震(1891年、M8.0)に匹敵する規模で、エネルギーは阪神・淡路や熊本地震(2016年、M7.3)の4倍に相当します。発生を予測していたとはいえ、ここまで大きな地震になったことは非常に衝撃的です。
能登半島先端部の群発地震で歪みが溜まった断層の割れ目に、地下深部から上昇した高圧・高温の地下水(流体)が染み込んだ影響が考えられます。断層の割れ目が流体で滑りやすくなり、条件が重なった結果、約150kmもの断層が動く巨大地震になったと推測されます」
元日以降も大きな揺れが続いた能登半島付近では、今後、最大M6クラスの余震がいつ起きてもおかしくない状況だという。