冬の寒さが一層厳しくなるこの時期。外出することが億劫に感じたら、暖かい部屋で読書を楽しんではいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。
『話す力 心をつかむ44のヒント』/阿川佐和子/文春新書/990円
先人に頭を垂れた本。読みながら思う。「話す力」とは魅力的な人とどれだけ出会って吸収したかに尽きるのかも。やんごとなきご夫妻の長テーブルでの会話術、ゴルフ場に着くまでの2時間、話題のしりとり合戦で話の尽きなかった長友啓典さん、毎回へ〜と思うネタを披露した歩く映画辞典の和田誠さん、“大人の流儀”の伊集院静さん、人を和ます森繁流シモネタ。勉強になります。
『パッキパキ北京』/綿矢りさ/集英社/1595円
単身赴任中の50代夫に呼ばれて北京に飛ぶ元ホステスの30代菖蒲。コロナ禍のホテル隔離はリゾート地で、北京でも食やブランド品、男子大学生にちょっかいを出すなど精力的に北京を遊ぶ。題名は北京の極寒をラップにしたもの。資本主義の愛娘のような菖蒲のキャラと伸び盛りの中国も呼吸がぴったり。しかし着地が『阿Q正伝』とは!? 勝ち組気分のこの必勝法、目からウロコ。
『左がきかない「左翼記者」 朝日新聞元論説副主幹のパーキンソン闘病記』/恵村順一郎/小学館/1870円
報ステのコメンテーターだった著者を記憶する方も多いはず。その後パーキンソン病を患い、朝日新聞の夕刊コラム「素粒子」担当を最後に60歳で退職した。同病の者が身内にいたので闘病部分には胸詰まるが、安倍政権下の放送法ねじ曲げで(昨年小西洋之議員が内部文書をリークし明確に)“左翼記者呼ばわりされたのはむしろ誇り”と。著者のような記者魂の再来を渇望する。
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』/桜木紫乃/角川文庫/814円
ぶるっ、さぶっ。靴下2枚履き。そんな真冬に染みる人肌小説だ。場末感漂う3人の芸人が年末年始興行のため釧路のキャバレーにやってくる。二十歳の章介は彼らを廃墟じみた寮に案内し、4人は1個の石油ストーブで肩寄せ合う共同生活を始める。失敗続きの手品師(師匠)、ソコ・シャネルという名のいかつい女装歌手などキレのいいユーモアが読み所。ラストは眼鏡が曇ります。
文/温水ゆかり
※女性セブン2024年2月1日号